△07▽ ちょっとこっちおいで
「…………」
「…………」
「…………」
思わず、三者三様に固まる。
「あ、あのこれは……」
くららが伸ばしかけた手を引っ込め、慌てて弁明しようとすると、灰時が誠実を手招きした。
「誠実くん、ちょっと……。ちょっと、こっちおいで?」
笑顔だが、笑顔が怖かった。
「え……。あ……」
「早く」
「はい……」
誠実が青ざめた顔で、くららの上から
「くらら……」
誠実を捕まえた灰時は、振り向き
「はっ、はいぃっ‼」
思わず、声が上ずる。
「身体は大丈夫? 怪我とかしてない?」
「あ、あぁ……。大丈夫、だと思う」
確かに少し頭をぶつけたが、思ったより強くは当たらなかったので、今のところは問題なさそうだ。痛みも、もう引いていた。
「……そっか。それならよかった」
灰時は安堵したような顔を浮かべると、またすぐに先ほどの少し怖い笑顔に戻った。
「……俺はちょおっと、誠実くんと二人でお話ししてくるから、その間に着替えておいで。ね?」
「は、はい……」
有無を言わせないような態度だった。
しかたなく、くららは言われた通り、寝間着から普段着に着替え、居間に行った。すると、もうすでに灰時と誠実が席についており、朝食の準備も終わっているようだった。
「わぁ~。すげーおいしそう! さっすが、灰時は料理上手だなぁ~」
「くらら。そういうのいいから、早く座って」
「……はい」
――ちょっと、わざとらし過ぎただろうか。くらら的には、場を和まそうと思って言ったのだが……。実際、おいしそうだったし。
それにしても、
「……あのね。一応言っておくけど、別に俺はくららと誠実くんがいちゃいちゃしてたのを
くららが席に着くと、灰時がおもむろに語りだした。
「……へっ? そ、そうなのか?」
「そうだよ。誠実くんにはさっき話をしたんだけど……。夢中になるのはいいけど、怪我しそうな危ないことはしないこと! さっきは、本当に大きな音がしてびっくりしたんだからね!」
「うっ……! そうだよな……。ごめん。今後は気を付ける」
確かに、さっきの状況はいろいろ危なかったかもしれない。特に怪我とかはしなかったけれど、打ちどころが悪かったら、本当に怪我をしていたかもしれない。
「まぁ、全然嫉妬しなかったかと言われると、嘘になるけど……」
「えっ?
灰時が
「いいや。
「お、おう。そうだな!」
とりあえず、みんなで手を合わせ、朝食を食べ始める。
おいしい朝食を味わっていると、さっきからずっと黙っていた誠実が、小声で話しかけてきた。
「……姉さん」
「んー?」
「さっきは、その……。本当にすみませんでした……」
かなり落ち込んでいるらしく、頭を下げながら謝る。
「いや、もういいって! おれの不注意でもあるし――」
「いえっ! そんなことはっ! オレがもうちょっと、周りに配慮していれば良かったんです。いつも、夢中になると周りが見えなくなるのは、オレの悪い癖だから……」
誠実が目を伏せながら言葉を紡ぐ。
「誠実……」
「だからっ、本当に――」
「誠実。本当にもういいって。反省してるのはよく分かったからさ。……それに、おれ……。嬉しかったよ……。そんな、周りも見えないくらい、おれに夢中になってくれてさ……」
「ね、姉さん……⁉」
「ははっ! おれ、何言ってるんだろうなっ! ……でも、本当に嬉しかったから……。今度は二人っきりで……、ちゃんとベッドの上でいろいろしよ……?」
くららが、最後の言葉をそっと誠実に耳打ちすると、
「ぐふぅぁっッッッ……‼」
何故か、誠実がいきなりダメージをくらったかのように、
「えっ⁉ ちょ、誠実⁉」
「誠実くんっ⁉」
「す、すみません……。一瞬、理性がどこかへ行ってしまったようで……。だ、大丈夫です。何とか生還しましたから……」
赤い顔を手で抑えながら、誠実は自分の無事をアピールする。
「……くらら。さっき誠実くんに何か言ったでしょ?」
どことなく、冷たい雰囲気をまとった誠実の言葉に、思わず背筋が凍る。
「え……。えーっと……。ほ、ほらっ! そんなことより、
「ちょっと! くらら、ごまかさないでっ! う~っ! ひどいよ、誠実くんばっかり~!」
怒ったかと思えば、今度は泣き出しそうな顔でくららを責める。
「そ、そんなことはないだろっ⁉」
「そうですっ! そんなことはないです!」
「……もうっ! 誠実くんは、黙ってて‼」
「あ~。この卵焼きも本当おいしいなぁっ!」
「くらら~~‼」
この後も、灰時の追及が続いたが、何とか話を逸らして、くららはその日の朝食を終えたのだった。
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