△02▽ おれをその気にさせた責任ちゃんと取れよ

「く、くらら……? 大丈夫? ごめん、ちょっとやりすぎたかも……」


「……ちょっと、だと?」


 その言葉に思わず身体が反応する。


 これが、『ちょっと』なのか。こいつにとっては。――そう考えると、なんかだんだん腹が立ってきた。力が入らなかったはずの身体は、怒りのおかげでどんどん力を取り戻していく。


 そして、わなわなと肩を震わせながら、顔を上げ、思いっきり灰時を睨みつけた。


「これのどこがちょっと……、だボケェッ‼ 本当にいい加減にしろよっ‼」


「く、らら……」


 思いっきり怒鳴りつけると、さすがに驚いたのか、灰時がくららから身体を離す。その隙に、勢いよく椅子から立ち上がり、ビシッと指を突きつけた。


「こんなことされながらなぁ、作曲とかできる訳ないだろーがっ‼ あほかっ!」


 正直もう、いろんな意味で限界だった。こんな状態では、作曲どころじゃない。


「ご、ごめん……! だって、あのまま続けててもなかなか進まなそうだったし……! それに、その……、かわいいくららを見てたら、つい、触りたくなっちゃって……」


 必死で弁解しながらも、少し顔を赤らめて灰時がつぶやく。


「んなっ……!」


(どうして、こいつはいつもこう……!)


 平気で恥ずかしいことを言ってくるのだろう。どうしようもないほどの正直さに、なかば呆れた気持ちと同時に、嬉しいと思う気持ちも込み上げてきてしまった。


「ああぁっ! もうっ‼」


 思わず頭をかきながら、覚悟を決める。


 しょうがない。――そう思い、くららは思いっ切り灰時の服を掴み、引き寄せた。

 そしてそのまま、強引に灰時の唇を奪う。


「――っ‼」


 刹那、灰時の息を飲む声が聞こえた。


「くら、ら……」


 信じられない、というような顔をする灰時に気を良くしたくららは、灰時の耳元でそっと囁く。


「……おれをその気にさせた責任、ちゃんと取れよ……」


「ッ……⁉ くらッ、んんっ……!」 


 そう言って、さっきより少し深めに口づける。


 いつも攻められてばかりいるが、たまにはこういうのもいいかもしれない。くららのキスに翻弄ほんろうされ、真っ赤になっている灰時は、とても可愛かった。


「っ、はぁ、はぁ……! く、くららからこんなことされら、俺っ……!」


「ん?」


 若干涙目になっている灰時が可愛過ぎて、つい、わざとらしく首をかしげて聞いてみる。


「……されたら、どうなるんだ?」


 ゆっくり灰時の耳元で囁くと、その体が一瞬震えたような気がした。


「ッ……! くららの、馬鹿ぁっ!」


 灰時は真っ赤になりながら、キッとくららをにらみつける。


「へぇ……。おれが馬鹿なの?」


「! ちっ、ちが、そうじゃなくてっ! そうじゃないけど……っ!」


(あー。やばいな、本当)


 灰時の態度がいちいち、くららを刺激する。


(何だろう。兄だし、年上だし、男なのに……。何でこんなにかわいいんだろうな)


 正直、こんなことを考えている自分の方がやばい気がする。これ以上すると、何かいろいろ抑えきれなくなるような、自分でも自分のことを止められなくなるような気がしたので、灰時をいじめるのはここら辺で止めることにした。


「……いいよ。ほら、なよ」


 自ら手を広げ、灰時に続きを促す。


「へっ⁉ う、うん……」


 最初は遠慮がちに、けれどだんだん深く、灰時から熱い口づけが贈られる。その熱の心地よさにおぼれながらも、やっぱり思ってしまうのだ。


(あぁ、かわいいな……)


 そんな灰時から降り注ぐような熱を、くららはずっと受け止め続けた。

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