ちっちゃくてかわいい先輩が大好きなので一日三回照れさせたい

五十嵐 雄策/電撃文庫

第一話『照れさせられるちっちゃくてかわいい先輩と、喜ばせたい素直で不器用後輩』1

『──みなさん、こんにちは。四月九日木曜日、お昼の放送です。本日の放送は放送部のたかとおりんがお届けいたしております。はじめに──』


 たとえるならそれは、真夏の高原を通り抜けるさわやかな風のような声だ。

 生徒たちのけんそうにぎわう昼休みの廊下を歩きながら、いちむらりゆうすけはそう思った。

 スピーカーから流れてきているのは、昼休みの校内放送。

 少しだけソプラノがかったその声は、森林を流れる岩清水のようにキラキラと透き通っていて、マイナスイオンがはち切れんばかりに満載で、耳の奥にすうっとるように吸い込まれていく。

 きっと声の持ち主は大人びていてきれいでスタイルのいい、せいな年上の先輩だろう──そう自然と思わせる声だ。

「なあなあ、この声、なんかいいよな」

「きっとすっげえ美人で大人っぽいお姉さまな先輩がしやべってるんだって!」

「見に行ってみようぜ!」

 興奮した声でそう言い合いながらりゆうすけの横を追い抜いていく男子生徒の姿。

 おそらく一年生だろう。

 似たような光景は、一年前にも何度か見ることができた。

 その時のことを少しだけなつかしく思いながら、さらに廊下を歩いていく。

 りゆうすけが向かった先は、放送室だった。

 高等部校舎四階の一番奥にある、防音加工の施された部屋。

 放送は一段落したようで、スピーカーから聞こえていた耳心地のいい声は今はんで、代わりになぜかヴィジュアル系のハードな音楽が流れている。

 放送室の扉は上半分がガラス窓になっていて中の様子が分かるようになっているため、さっきの一年生たちがそこから室内をのぞんでいた。

「どうどう? それっぽい人いる?」

「お、一人見付けた。でもあの人は違くね?」

「後ろ姿だからよく分かんないけど、ちいさいし、あれってたぶん俺たちと同じ一年生だよな……?」

 困惑したような声が聞こえてくる。

 そんな光景も、また一年前と同じものだった。

 やがて一年生たちは諦めたのか、扉の前から離れた。

「おっかしーな。さっきまで声が聞こえてたはずなのに」

「放送が終わったらすぐに教室に帰っちゃったとか?」

「ま、いいや。行こうぜ行こうぜ」

 そう口にしながら、廊下の向こうへと消えていった。

 それを確認すると、学生服の詰め襟を正して、りゆうすけは放送室の扉へと手をかけた。

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