柳生十兵衛、時代劇で幾度となく登場する人気の剣豪である。
だが、柳生十兵衛をここまで強力でとんでもない存在として書いたのはこの物語くらいだろう。
柳生十兵衛以外でも、町田が魑魅魍魎のたまり場になっていたり、ウォーモンガーたみ子が武器をぶっ放したり、悪夢堂轟轟丸が二千万人の暴走族を引き連れたり、千利休が首だけの存在になり二兆億利休を名乗ったりと、色々と設定が凄い事になっている。
だが、柳生十兵衛という最大級の脅威に対し、町田の人々が対決するというバトル要素、そして百手のマサがさまざまな登場人物をと出会い、弱さを克服するという成長要素が含まれ、ただ設定がぶっ飛んだ物語でないことを知らしめてくれる。
最後まで読めば、きっと柳生がクセになっているだろう。
時は柳生暦37564年、死都町田に訪れしは柳生十兵衛。功名を、栄誉を求め、十兵衛の首を狙い、町田に潜む奇人、怪人、魔人が次々に姿を見せる。かくして柳生十兵衛を中心として町田に狂気と死の渦が巻き起こる……。
これは冒頭のあらすじだがこの時点で大変パンクな作品である。登場人物もマッドサイエンティストによって全身を兵器に改造されたウォーモンガーたみこ(本名)や斬られた首を機械に繋がれ生体コンピューターと化した二兆億利休(自称)などもいるしサイバー要素もばっちり。
つまり本作品はどこに出しても恥ずかしくないサイバーパンクということになる(断言)。
登場人物はそれ以外にも、肉で作られた洋館【内臓館】に住む女主人マダム・ストラテジーヴァリウスや二千万人の軍勢を誇る北関東の最大の暴走族【霊義怨】、かつて十兵衛にやられコーホーとしか喋れなくなった柳生ベイダーなど、非常にアクの強い連中ばかり。そしてそんな奴らを歯牙にもかけないとにかくべらぼうに強い柳生十兵衛……全体的に設定が誇張されすぎている……それにもかかわらず死力を尽くして戦う彼らの姿を見ている内に、気づけば胸が熱くなってしまう……。
世の中には技巧が洗練された小説や人の心を絶妙に揺さぶるエモい小説など数多くの優れた作品がある。だが本作のような力技と勢い全振りの内容は市販の小説では決して見られまい。このような怪作と出会えることがWEB小説を読む大きな喜びの一つと言えるだろう。
(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)
柳生暦37564年、死都町田は大いに色めき立った。
押しも押されぬ柳生界のスーパースター、柳生十兵衛がこの街に表敬訪問に訪れるという。
十兵衛の首を獲れば金も狂気も思いのままぞ。十兵衛、ブッ殺るべし。柳生、ブッチ斬るべし。
かくして東洋一の大魔窟、町田に蠢く海千山千魑魅魍魎有象無象の怪人物どもは、一目散に打倒十兵衛に突き進むこととなった。
始めに言おう。こいつはやばい。危険という意味でも素晴らしいという意味でもやばい。インターネットの深淵に住まう怪物的物書き、アロハ天狗の送るパラダイムシフトな怪作。舞台は柳生一族が支配する柳生バースの日本。ジャンルはSF伝奇剣豪マーダーパンク小説とでも言おうか。あらすじは上に挙げた通り。この時点ですでにヤバいにおいがプンプンする。そして中をのぞけば肩書だけで頭おかしくなりそうなやつらがぞろぞろ現れる。主人公は柳生十兵衛の剣を2回止めた男、百手(ヘカトンケイル)のマサ。柳生十兵衛の首を狙うサイボーグ、ウォーモンガーたみ子。町田のインフラを支配する謎めいたマダム・ストラテジーヴァリウス。二千万の暴走族を率いる男、悪夢堂轟轟丸。柳生一族に復讐を誓うサイキック生首、二億兆利休。新陰流最大の忌み子、柳生ベイダー。そしてこれらの怪人どもを押しのけて異常な存在感を出す柳生十兵衛。などなど。この時点で頭がおかしくなりそうなオーラをぶちまけている。そして彼らはただやべーだけではないのである。一人一人が確固としたキャラクター性を持って群像劇を繰り広げるのである。(柳生十兵衛はヤバすぎるので除く)この時点で戦慄するような狂気がにじみ出ているが、ただやべー輩がうろうろしているだけではなく、『柳生十兵衛がやって来る!ヤァ!ヤァ!ヤァ!』は、小説としても高性能である。単なる悪ふざけや一発ネタではない確かな力をこの小説は持っている。小説としての柳生ヤヤヤのパワーを一言で表すならば、「全部盛り」といえる。コミカルなギャグでもってシリアスをなし、SF的なガジェットを剣豪小説のような文脈に組み込み、パロディをふんだんに用いて独自性を醸し出し、狂気を抱いて王道を駆ける。それでいてややこしくはならずわかりやすい。どの要素もぎらぎらと輝いている。そのパワーを持ったこの控えめに言ってあたまおかしい物語を描くという所業は、まず正気の沙汰ではない。狂人か英雄か妖怪の所業である。始めに言った通り、こいつはヤバい。遭遇するだけでSAN値が削れそうな怪物である。しかしあなたがひとたび好奇心を持って恐るべき町田に足を踏み入れたならー至高の読書体験は、あなたを逃がさない。
「柳生歴37564年、死都町田は大いに色めき立った」というどうかしている書き出しからはじまり、作者の頭のネジが外れているとしか思えぬ名前のキャラがずらりと並び、柳生十兵衛が刀のわずか二振りで、「死都町田」をあらかた滅ぼす──
このようなトンデモな冒頭を読んで、あなたはきっとこう思うだろう。「あぁこれは、ネタに走ったバカなパロディ小説だな」と。
否。そうではない。 そうではないのだ。
本作は時代小説から最新ゲームまで、無尽蔵かつ自由奔放に摂取してきた作者がその知識を総動員して、ぶっとい体幹をしならせて全力で叩きつける、伝奇SF剣戟アクション娯楽ノベルなのである。
血のたぎるバトルがある。目を剥く突飛なガジェットと魔術がある。心震わすドラマがある。
友情と恩義と、悲劇と別離と、笑いと感動と、バカなネタとパロディと、強さと弱さと、悪と義と、後悔と奮起と、過去と現在と未来がある。つまり全てがあるということだ。
大人も子どももおねーさんも虜にする、現代最強の娯楽小説のひとつがこれだ。さぁページをめくって、わるいやつらの闊歩する町田へと繰り出せ!!
町田に柳生十兵衛来たる、という冒頭を読んでそっとブラウザを閉じる者は不幸せである。内輪受けを狙った色物小説でしょ、と開きすらしない者は不幸せである。なぜならあなたは新しい世界の扉を気づかぬまま閉ざしてしまう。
表層と深層が奏でる不協和音のようで、そうではない奇跡的な物語を見逃してしまう。
二兆億利休、と聞いて首を振る者は不幸せである。ウォーモンガーたみ子、柳生ベイダー、悪夢堂轟轟丸、それらの名を聞いて引き返すものは不幸せである。なぜならあなたは見逃してしまう。
この、煮込みに時間をかけたパロディとオマージュの丁寧なテクニック、その底を流れるほんとうの物語の力というものをあなたは見逃してしまう。
わたしが自分以外の他人を褒めることは少ない。完結していない物語に言及することはもっと少ない。そのわたしが連載として、先の知れぬ物語、完結すると約束されている物語を、他の読者諸兄とともに一歩一歩追うことに喜びを感じる。
これは小説であるが同時にコミックであり、パルプであり、体験である。インターネットを介してわたしたちは幻想の町田界隈を取り巻く、異様な熱気に身を投じる自由を持っている。
これは決して内輪受けの物語ではない。パロディ元がわからなければ楽しめない物語ではない。まだ完結してないのに、いいから読んでみ、と勧められる数少ない物語である。
書き終えてからの連載形式とのことのため、途中で我々が異様に期待を寄せるあまり、その圧で作者が書けなくなることもないのもいい。チヤホヤされすぎて浮かれて登場人物と作者の掛け合いショートストーリーとか挟んでこないのもいい。あらかじめ天狗なのもいい。
いまんとこ全部いい。