読み始めたら止まらなくなり、涙が溢れてきました

 舞台は十九世紀、今よりも更に窮屈な価値観に縛られた世界。
 貧しい羊飼いの少年ジュールと、裕福な家庭の青年ヤンは運命的な出会いを果たします。
 それは癒しと希望をもたらす奇跡のような出会い。
 純粋に愛を育む彼らが望むのはほんの少しの静かな幸せでした。

 けれど、周囲の悪意によって引き裂かれ、めちゃくちゃに振り回されて深く深く傷ついていきます。
 これでもか、これでもかと襲い掛かる悲劇。必死で顔を上げても踏みつけられて、救いを求めて差し伸ばした手は更なる底なし沼へと引きずり込まれる。
 理不尽な世間、社会の暗部を押し付けられた姿。
 見守る私たちはこの二人に救いは無いとあきらめそうになると同時に、フツフツとした怒りを感じます。
 このままでは終われないと。

 その一方で、彼らを不幸に陥れる敵である人物たちにも、憐憫の情を感じてしまうのです。 
 なぜなら、彼らはとても人間らしいから。
 人間だからこそ、嫉妬に狂い、歪んだ感情を弱者へ向け、傷つく姿を見て己の鬱憤を晴らす。
 こんなに醜いのに、それを完全否定できないのは、私にもその心があって無意識に同じような過ちを犯していることがあるからです。

 この物語の光も陰も、私たちは自分のことのように感じ取ることができます。
 だから、目を逸らしたくても逸らせなくなるのです。 
 
 文章はとても美しく、過不足ない表現。読む者の心に深く響いてきます。
 そして感情移入すればするほど、ラストの美しさに心が洗われることでしょう。
 重厚な人間ドラマを体感したい方、是非ページを開いてみてください。
 お勧めです!

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