第10話
「ここからなら見えるか?
「は、はい、見えます!」
空は快晴。太陽はまだ上がりきっていない。大木の天辺で風はほど強いが、それも心地よいほどであった。
「それにしても、絶好の鳥葬日和という奴じゃな!」
「……葬式に日和、などという言葉は使いませんよお屋形様」
「おお!来たぞ
お屋形が指差した先にあったのは…
「金色の……烏!?」
お屋形はカカカと笑った。
「見ておれ
「…以前から不思議に思っておりましたが…どうして人の世のことをお屋形様はよくご存知なのですか?」
崔が訝しく聞いてくる。お屋形は別段頓着もせぬようで、飄々と答えた。
「昔々に阿呆がおったからのう」
「阿呆?」
「妖狐なんぞに婚姻を申し込むいかれじゃ」
「………それはそれは………」
それを聞き、崔にとっては今までのお屋形の奇行に対しむしろ合点がいくという思いだった。
数日前、妖狐の里で実に百年ぶりにお触れが発布されることとなった。
これがお屋形の初勅でもあった。久方ぶりのことになおのこと沸き立つ村の衆だったが、そのお屋形のお触れとは『先代までの法度をすべてなかったことにする』という皆の想像を遥かに超えたものだった。妖狐たちの混乱ぶりと言えば筆舌にし難いものがあった。
「お屋形様………その方がすべての元凶と考えてもよろしいのでしょうか?」
「さてのう?さ、そろそろ帰るぞ、わしらにはまだまだやることがあるからのう。
生命とは。
愛とは。
家族とは。
いつか縋るように答えを求めてきた
しかし、
お屋形は
遥かその先には、かつての想い人がいる。
二度と会えないとしても、その受け取った想いはきっと誰かに手渡すことが出来る、と。
そこにいる小さな妖狐が教えてくれたのだ。
お屋形は満足げに空を見上げた。
「さてもさても……晴れ晴れじゃ」
けだしあやかし 藤原埼玉 @saitamafujiwara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます