幼い妖狐が人間の子供に化け、幼児を亡くした老婆と共に生活するお話。
和風ファンタジーです。童話や昔話にも似たわかりやすくもしっかりとしたストーリーを、児童文学あるいはライトノベル/ライト文芸のような個性的なキャラクターの魅力で彩り、その上で主題の部分をきっちり掘り下げてみせる、優しいライトファンタジーのお手本のような物語でした。
本当に児童文学やお伽話を思わせるというか、このものすごく素直で真っ直ぐな筋立てが好きです。まだ幼い少年(年齢三桁だけど妖狐の発達だと事実上の子供)である主人公、鵲《いそしぎ》の視点から描かれた世界。彼の好奇心や興味関心の向かう様が、そのまま本文の雰囲気にどっぷり影響していて、だからこそ読み手の脳裏に浮かぶ光景や情動の、その瑞々しさが実に気持ちいい。
例えば彼の周囲にいる人々、妖狐の大人たちが魅力的なんですよね。頼もしく見えるし、また場面によっては「わかってくれない大人」としての役回りも果たしてみせて、つまりはっきり少年の成長物語をやっているという、その実感がとても楽しかったです。
あとこれは少しネタバレになってしまうのですけれど、結末というか物語の帰着点が最高でした。彼らの今後立ち向かうべき困難というものを考えたとすると、実は何も解決していないどころか問題が増えたともいえる決着。実は作中で主人公が実質的に立ち向かったもの、「人間と妖狐の寿命の違い」というのは結局どうあがいたところでどうすることもできない存在で、つまり必ず負け戦になるのですけれど、にもかかわらずこの晴れ晴れとした爽やかなハッピーエンド感はなに?
死という重い主題で始まり、その実際である葬儀の場面で終わってすらいるのに、でも確かに拓けているこの先の未来。まさにビルドゥングスロマン、形のない『成長』というものを文字の中にはっきり描き出してみせた、とても気持ちの良い物語でした。