まだ幼いその少女は人喰いの娘だった。人喰いとして殺された母親の娘であるから彼女もまた、人喰いに他ならないのだ。
少女は人を喰らい、過酷な環境のなかでも生き延びてきた。幼い外見で人間を油断させ、後ろから襲うのだ。そうして、喰らう。喰らう。
だって彼女は、人喰いなのだから。
人喰いという題材をこれほど巧く調理し、たった五千文字の短編のなかに収められた、著者さまの類まれなる才能。言葉もございません。ほんとうに素晴らしいです。無駄のない、しかしながら場景がありありと浮かぶ文章にも思わずうなりました。
喰らう。という行動には恐怖を克服したい、という感情があるといいます。彼女もまた、そうだったのかなと読後にも想像を巡らせています。できることならば、彼女と彼がこれからどうやって旅を続けていくのか、続きを読ませていただきたい! と思ったり。
人喰い。美しき人外。少女。異類婚姻。どれかに惹かれる御方はぜったいに読まないと損です。読みましょう。
ちなみにわたしは、どれも好きです。
ひとりで狩りをする人喰いの少女と、別の人喰いの出会いのお話。
どこかうら寂しくまた荒廃した雰囲気の漂う、非常に丁寧に書かれた異類婚姻譚(とは少し違うかもしれないけれど、でも異種間の恋愛物語)です。
タイトルにもある『人喰い』の要素が、お話の軸にがっちり食い込んでいるところが最高でした。ただ異なる種族同士の恋愛というだけでなく、またただの化け物や怪物ではだめで、あくまでそれが『人喰い』でなければ成り立たない物語。事実、タグにも「カニバリズム」「食人」といった単語が並ぶのですが、なるほど看板に偽り無し、といった印象です。
カニバリズム、というと単純に人肉食のことを指したりもしますが、この作品を読んでいて感じたのはやはり、「共食い」「同族喰い」という意味でのそれでした。彼女らの場合の同類・同族とは何を指すのか、またそれ(同類)を食うことの意味とは何か。食うものと食われるもの、はっきり分かれているはずの種の違いの間を、姿を偽り行き来すること。
味わい深い物語でした。メインのお話の筋である恋愛物語、荒廃した世界からほっと暖かい景色へ、その移り変わりの裏にでもしっかりと根付いた、『人喰い』という概念の厚みが魅力的です。登場人物に名前がなく、代わりにただ「彼女」「人喰い」と呼ばれるところが好きです。