食べるものと食べられるものの境目

 ひとりで狩りをする人喰いの少女と、別の人喰いの出会いのお話。
 どこかうら寂しくまた荒廃した雰囲気の漂う、非常に丁寧に書かれた異類婚姻譚(とは少し違うかもしれないけれど、でも異種間の恋愛物語)です。
 タイトルにもある『人喰い』の要素が、お話の軸にがっちり食い込んでいるところが最高でした。ただ異なる種族同士の恋愛というだけでなく、またただの化け物や怪物ではだめで、あくまでそれが『人喰い』でなければ成り立たない物語。事実、タグにも「カニバリズム」「食人」といった単語が並ぶのですが、なるほど看板に偽り無し、といった印象です。
 カニバリズム、というと単純に人肉食のことを指したりもしますが、この作品を読んでいて感じたのはやはり、「共食い」「同族喰い」という意味でのそれでした。彼女らの場合の同類・同族とは何を指すのか、またそれ(同類)を食うことの意味とは何か。食うものと食われるもの、はっきり分かれているはずの種の違いの間を、姿を偽り行き来すること。
 味わい深い物語でした。メインのお話の筋である恋愛物語、荒廃した世界からほっと暖かい景色へ、その移り変わりの裏にでもしっかりと根付いた、『人喰い』という概念の厚みが魅力的です。登場人物に名前がなく、代わりにただ「彼女」「人喰い」と呼ばれるところが好きです。

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