第5話 通貨の偽造は犯罪です
「で、この偽札を手に入れた経緯、入手先についてお教え頂けますでしょうか?」
目の前で生徒の不正を咎める教師のような中年の男性が言う。その前にはカンニングがばれてうなだれる生徒のような青年がいた。俺だ。
相手の通貨を特殊な力で10兆円分造り出した俺は、意気揚々と借金の返済に向かった所、屈強な衛兵に取り囲まれ、相手の外交官から尋問を受ける事となった。
「ななな…何なんだよ一体!」
そう叫ぶ俺にサンガが相手の言葉を聞いて通訳する。
「『これはウチの国では作った事のない番号が刻印されているものや、作ったけど我が国が保管する紙幣と重複する番号があるので、どういった経緯で入手したのか説明してほしい』と言われています…」
あ
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
簡単にばれてしまった…。
出来の悪い落第生徒に噛んで含めて説明するように外交官である中年男性は言う。
長寿のエルフだけあって若く見えるが300歳は超えているらしい。
『我が国ではすべての紙幣に通し番号が振られています』
そういえば、そんな物が日本のお札でも書かれていたなー。透かしとか模様ばかり気にしてて見落としていたよ。
というか、某猫型ロボットの漫画でも、お金を作ったら番号が全部いっしょだったんでバレたというお話があったような…。いや、あれは☆新一さんの短編だったかしら?
『で、この番号は偽造を防ぐために決まった文字や特定の数字を使用しない工夫がされております』
なるほど、だから数枚調べただけで異常に気が付いたのか…
「おまけに、この中には当国でたしかに発行したものもありますが、我が国の国庫に同じ番号のものがあるのです」
そういうと目の前に二枚の紙幣を提示する。
ああ、両方とも同じ番号が書かれてますね。
感心して眺めていると、罪人をさばく刑事の様な眼で
「これについて何か申し開きはあるでしょうか?」
と言ってきた。
やべぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
偽札というか、そっちの国で作ったものじゃないってばれてるよ!!!
「ちなみに、紙幣偽造は国の根幹を揺るがす大罪です。見つけ次第懲役刑となるのは確実です」
え?そんなに罪が重いの?
そう思っていたら相手の顔がぴくりと動く。こころなしか口の端がひきつっている。
「お金は土地に次ぐ、国の根本です。エルフがその生の大半を消費して生み出す価値。それを運ぶ大事な道具なのです。それを不正に作り出して不正を働く存在を国は絶対に許してはなりません。」
「ははは、ソウデスネ…」
この国に住んでない俺にとって、この世界の金なんておもちゃ銀行券の価値も無いのだが、一生懸命働いている人にとってはブチ切れ金剛な犯罪なのだろう。
「なお、日本では『刑法の第16章に通貨偽造罪(148条)外国通貨偽造及び行使等罪(149条)』などがあり『無期または3年以上の懲役刑』になるそうですよ」
と『悪い子でもわかる日本の犯罪』という本を見ているウイルドが言う。
もうすこし刑期とかオマケしてもらえないだろうか?
「『偽造通貨の流通はその国の信用を揺るがし、最悪の場合、国家の転覆をも生じかねない性質を持つため、どの国においても金額の多少に関わらず重罰が課される』しかないみたいですね」と『やさしい刑法』と書かれた本を読みながらサンガが言う。
「ちなみに、19世紀初頭まで、欧州では通貨偽造は『国王への反逆=大逆罪』ということで死刑だったそうですよ」とウイルドが補足する。
「あと、2011年に中国で人民元紙幣1億9500万元を偽造したグループの主犯格は死刑となっています」サンガもさらに補足しやがった。
うん、その情報いらない。
「ちなみに、我がエルフの国では軽くて懲役1000年です」と外交官が言う。
それって無期懲役に等しいじゃねぇか。
そう思った時、俺の脳天に声が響いた。
【偽造通貨横行(2018年頃;中華民国&1990年 日本)】
【あまりにも精巧な紙幣が偽造されると一般人では見分けることができなくなります。中国では銀行の両替機で偽札が出た事も確認されておりお札を使うのが非常に難しくなりました。また日本では500円硬貨と非常によく似ているくせに通貨として価値は1/10しかない500ウォン硬貨という外貨を悪用する事例が多発しました。
これに対処するために現在中国ではキャッシュレス化が進み、日本では新500円という特殊な硬貨を発行して対応しました】
へー。
【このような偽造通貨は労働意欲を失わせ、国の信用を揺るがす大罪なので、日本では偽通貨が使用された場合、草の根を分けてでも犯人を見つけだし厳罰に処すようにしています。】
へ、へぇぇ。
【なので偽札製造者は時代によっては死刑になる場合もありました】
うん、それは目の前の3人から何度も聞いた。
「我がエルフ国としましては、国家元首に等しい方がこのような犯罪に手を染めるとは誠に遺憾であり、さらに追加の賠償と関係者の処け……処分をして頂かないと示しがつかないのですが…」と、鋭い目で告げる。
そこには一切の容赦はない。
あ、これ詰んだわ。
「ギブアーップ!」
俺は天にいるであろう、この世界の神にやり直しを要求した。
こうして第一回目の挑戦は失敗に終わったのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お札を見れば分かりますが、偽札が作られないよう国はお金を管理してます。
自分も本屋に勤務していた時、500ウォン硬貨がお釣りから出てきた。という報告を聞いた時、「偽造通貨を使う野郎は●ね!」と思った物です。
それ以上に「お金を入れたのにお釣りが出ない」とか「一万円を入れたのに出てこない。急ぐから飲料メーカーではなく、そちらが立て替えろ」と要求する詐欺師の方が手間がかかるので極刑に処して欲しいなと思ったりもしました。
まあ『身分証と携帯番号を教えてください』と言って、その場で確認電話しようとすると逃げ出すんで、すぐに警察に通報までがワンセットでした。
異世界にいったら外国に10兆の借金がある国の宰相に任命されてしまった 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru
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