本好きな人が集うブックカフェの心地よい空気が学生時代の夢を叶えた祖母の気持ちを支えたい主人公の一途な優しさとともに伝わる味わい深い作品です。
武蔵野にある、おばあちゃんのブックカフェが舞台のお話。自然の描写が豊かで、緑の香りがしてきそうです。ブックカフェという舞台も、読書好きにはたまらないです。コーヒーを飲みながら読んでほしい作品です。
近いようで遠い場所。遠いようで近い心。深い緑に囲まれたカフェにはお気に入りの蔵書。雑踏から透明感のある空気を求めに来る孫娘。セピア色の大切な思い出を、当時と同い年くらいの孫に受け継ぐ祖母。カウンターの小さな傷や、温かみのある白熱灯の灯り、木枠の本棚、白い陶器のシュガーポット、小さなグラスに挿した名も知らぬ野辺の花が、描かれてもいないのに目の前にありありと浮かんで来て、行間から漂ってくるコーヒーの香りとともに脳内を占拠する。週末にでも行ってみようか。
人の手で作られた自然に囲まれた、人の手で作られた町。それが武蔵野。キャンパスや図書館が並ぶ杜の街に、祖母のブックカフェがあった。濃いコーヒーの香り、微かに交じる古い紙のにおい。そんなブックカフェで祖母から依頼されたこと。――待ち人をお願いするよ。主人公は待つ人になることを決意する。時間に追われる現実を忘れたくなる作品。読み終わると、自分も何かをゆっくりと待ちたくなるのが不思議だ。
たくさんの本と人が集まるブックカフェーー。作者の鋭い視線の虜になりました。世代が違う二人の青春時代と、二人それぞれの速さで過ぎゆく時間がほんのすこし淀んだ空間。そこに漂う、ほんのり甘く苦いコーヒーの香りは、すべてを包み込んでくれるのでしょうね。緑あふれる街のこのブックカフェに行ってみたくなりました。
このブックカフェも存在するのではないか、と思ってしまう。ジブリの「耳をすませば」を見終わった後のような読後感を是非!(ものすごく個人的感想ですみません!)
老いを受け入れた者が得る穏やかな時間。 祖母から孫娘へ、託す心のバトン。 透明な思いに、少しずつ色付けされていくような予感。 若者は己の未来へ向けて、新たな一歩をここで踏み出す。
風景や心理が丁寧に描写されています。時の流れと共に、風景は変わっていくかもしれない。人も変わっていくかもしれない。しかし、変わっていく街の中で「待ち続ける」気持ちだけはずっと変わらないでいる。お薦めの作品です。ぜひお読み下さい。