最上階【なずみのホラー便 第64弾】

なずみ智子

最上階

 寝坊してしまったOL・チホは、眉毛をザッと描いただけの顔で会社に向かわざるを得なかった。

 チホが勤める会社は、とあるオフィスビルの最上階にあり、エレベーター前にはビル内で働く他社の人々含め、大勢が並んでいた。

 

 階段を使うしかない、と決意したチホであったも、人気のない階段の手前にあるエレベーターに気付く。

 チホがそれに乗り込むと同時に、一人の女が滑り込んできた。

 糸のように細い目と荒れた肌をした女は、眉毛すら碌に描いていなかった。

 さらに、女は先客であるチホを見て嫌そうな顔をした。


 この感じ悪い女もチホと同じく最上階に行くらしい。

 チラッと女を盗み見たチホは、”女の顔面に起こり始めた変化”に目が離せなくなってしまった。

 エレベーターの上昇と比例するかのように、突っ立ったままの女の顔に、みるみるうちにメイクが施されていく。

 ”完成しつつある女の顔”にチホは見覚えがあった。この女は、隣の会社に勤める美女だ。


 最上階に到着した。

 もはや別人級に完成後の美女は、チホを振り返って言う。

「あなたも鏡を見てみたら? あまり他の人に知られたくなかったんだけど、このエレベーターは忙しいOLの朝の救済装置なのよ」



――fin――

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最上階【なずみのホラー便 第64弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko

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