第11話 怒りには怒りを
ぼくの言葉に、東郷部長は静かではあるが明らかに、強い怒りを感じている。怒り……。そして、戸惑いのような表情。
「君は何を言い出すんだ」
「しかし……」
「私たちはね、障害を持つ人たちの、これはおこがましいかもしれないけど、支援をすることができたらという気持ちを持っている。これは会社としての決定、目的、意志だ。その気持ちが君には、わからないのですか」
まっすぐ強い視線と口調で、ぼくは問われる。
「やらないよりは、やれることをやろうという気持ちです。それを言うに事欠いて、差別であると? 赤木さん。はっきり言って、とても心外です」
言っておいて気付くのもおかしいが……、まあ、そうだろうな、と思う。
いや、しかし……。
「部長、俺は『ひまわりさん』などと呼ばれることに、我慢がなりません。とても辛いです」
「辛い? それは君たちのような人でも、明るさを……」
「ひまわりさんにはひまわりさん用の席が与えられます。障害者はそこで仕事をしなければならない……。それがどういうことか。少なくとも……俺には、私にはとても辛い。一人の人間としてみられる前に、まずひまわりさんとしてみられることに耐えられない……。だってそれって、」
彩華支援員はどちらに与するでもなく、じっとやりとりを無表情で聞いている。
「それって、その席は、檻ってことじゃないですか……! 障害者はこっちってやるなら、それは檻と同じことですよ!」
「……言いたいことがあるなら、……言えばいい。言いなさい」
そう部長は言った。
「それでも一人の人間として、俺は司法書士行政書士としての役割をつとめることができるのなら。今の梱包作業でも、頑張りたいと思います。でも実際、4年も前に入社している人が、ずっと同じことをやっている……。そしてそれに喜びを感じているのでしょう。でもぼくは」
ぼくも戸惑っている。ぼくがおれになったり、私になったり。
「俺にはそれを喜びと感じることはできません……。ただ、ひまわりさんという役割を与え続けられる毎日には、耐えられない……。部長」
部長は思いっきりぼくを睨みつけている。
「私はひまわりさんではありません。司法書士行政書士赤木トーカです……! 法律の仕事をするために、この事務所を志望したのです」
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