13話 問題児には問題児を

 土曜日。

 

 僕は休日、就労移行支援事業所から呼び出しを受けた。緊急の用件だということだった。


 約束の時間に行くと、部屋に通され、そこには彩華支援員と、センター長が待っていた。


「佐々木さん……お世話になっています」

 佐々木センター長は笑顔でうなずき、座るように促す。


「ま、久しぶりだし、お疲れ様と言いたいところだけど、ちょっと困ったことになっていてね」

 と切り出した。


「何かあったんですか?」

 と、とぼけてみせた。


「この間ね、彩華さんと、そちらの法律事務所の……東郷さんね。面談やったと思うんだけど。その件で、法律事務所の方来られてね。5人も」


「5人ですか?」

 それはさすがに聞いていない。


「所長さんと、副所長、専務、常務、それに東郷さん」

「思いっきりヤバイじゃないですか」

「ヤバかったんだよ」

 と笑ったが、こっちも笑えてきた。


「そんなにキレさせちゃったってことですか?」

「そうだねえ」


 そうだろう、な。

 障害者のために。

 そう旗印を掲げている会社を、正面から否定したのだから。


『その旗こそが、差別の証拠なのだということに、気付けよ』と。



 所長、副所長、専務たちが押しかけ、「お前のところでは障害者にどんな教育をしているのだ」と詰め寄ったのだという。

 もちろんその場には、彩華さんも。


「佐々木さん、そして彩華さん。本当にすみません。まさか、こんなことにまでなるとは」


「うん。まあ、やってしまった、言ってしまったことは仕方がないから。赤木さんも悪気があって言ったことじゃないのはお互いわかってるから」

 と。そして

「大事なのは、歩み寄るということでね……」


 佐々木センター長の話を、ほとんど僕は上の空で聞いていた。


「……」


「……」


「……?」


「……」



「佐々木センター長じゃなく」

「ん?」

に伺いたい」

「……」


「弁護士としてみた時、先生はどちらの側についてくれますか?」

 佐々木弁護士は、笑いながら言った。


「それは、依頼してくれた方だよ」


 僕も笑いながら言った。


「じゃあ、あの事務所訴えるって言ったら?」


 佐々木弁護士は何も言わず、両手で拳を作り、ファイティングポーズを取ってくれた。

 それを彩華さんは表情を変えずに黙って見ていた。



 僕は事業所を後にした。

 ため息を一息ついた。

「まったく、トラブルメーカーだよなあ、はあ」



 帰ろうとする僕を、彩華支援員が見送ってくれた。

 言わないけれど、発達障害の彩華さんには相当、負担をかけてしまったに違いない。


 エレベーターに一緒に乗って、下まで送ってくれた。


 僕は改めて、頭を下げた。


「赤木さんは、本当に自分が悪かったと思っているんですか?」


 それは皮肉的でもなく、そういう意味ではなく。

 そのままの意味、だろう。


「…………思って、ねぇよ」

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