第4話 問題には相談を
今の仕事になんの不満があるのか?
「あの、コーヒー飲みながらでもいいですか? 彩華さん」
「あ、どうぞ」
30歳の大台に乗ったぼくは最近は、スタイルを気にして、口にするものにもかなり気を付けているのだ。100ml、100Kcal以上のものはなるべく口にしない。コーヒーには砂糖もミルクも入れない。コーラも最近は控えがちだ。
さて。
「どこから話したらいいのか、わからないような世界なんだよ……」
っていうか。
「っていうか、そもそも、彩華さんも、今、オープンじゃないですか」
「はい」
「逆に、彩華さんも障害者として働いて、戸惑ってることとか、大変なこととか、あると思うんだけど」
少し間をあけて、みすゞさんは答えた。
「……それは私のプライベートな話じゃないですか。今は赤木さんの定着支援として時間を取っているので、そういう方向の話は、遠慮してもらえませんか」
……もっともだ。
「そりゃ、そうだね……いや、そうですね」
プロ意識だな……。
「たとえば、俺は彩華さんが羨ましく思えるんです」
「どうしてですか?」
「彩華さんはここに通所していた頃から、支援員を目指していたんですよね」
「……はい」
「そして今、俺の担当として仕事の支援をしてくれています」
「はい。まだ1か月目の初回ですけど」
「それ、望んでいたことなんですよね」
「望んでいたことですね」
「……」
「……」
必要最低限のことしか言わない……。
「障害者支援員の求人に応募して、就職をして、障害者支援員ができるって、すごく幸せなことだと思うんですよ」
「……望んだ仕事をさせてもらえていない、と言うことですか?」
「……端的に言えば」
みすゞさんはPCのディスプレイに一度目を落として、何かを見ている。ぼくの内申書はどんなことが書かれていることやら。
「赤木さんはもともと法律系の仕事がしたくて法律事務所を選んだんでしたよね?」
「……そうです。司法書士、行政書士……」
ここで就労支援を一緒にやっていた時から、話していたことだから、ご存知でいてくれるとは思いますが、とは言わなかった。
「そういう条件で事務所に入ったんじゃないんですか?」
「もちろんそうです。登記申請だとか、行政への許認可申請とか」
「今はどうなんですか?」
ぼくはコンビニのアイスコーヒーを啜って、ため息をついた。
「彩華さん、俺は何も、『カイシャがヤリタイコトヲサセテクレナインデス』なんて泣き言を言うつもりなんてないんです。それは先に言っておきます。やりたい仕事をさせてもらえないことなんか、社会人では当たり前じゃないですか。そうでなかったら毎朝満員電車でみんなあんな表情していない」
「では?」
「事務所の中には司法書士の部署もある。行政書士の部署もある。社労士とか……。いくら司法書士、行政書士とか『法律系の資格を活かしてみないか』って言われたから就職したとしたって、事務所に入って、すぐに好きな部署に入れるとは思ってない……。将太の寿司みたいに『入って1年2年は追い回しだ、雑用だ』って言われることだってあるだろうと思う。問題は、そこに『この人は障害者だから』って意識が働いてるってことなんですよ」
続
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