第2話 おかえり25年。

3年前に来たときは、庭が綺麗だった。

ガーデニングが好きなばあちゃんは、綺麗に花を咲かせて管理していた。

今は、枯れてしまって雑草だらけだ。

人がいなくなった家は何とも寂しい憂いに満ちていた。


ばあちゃんのお見舞いには明日行くことにして、ばあちゃん宅を少し掃除することにした。

全部の窓を開けて空気を入れ替える。

祖父の仏壇をまず綺麗にして、コーヒーとお花を飾った。


「じいちゃん久しぶりに帰ってきたよ。ごめんねなかなか来なくって。」

両手を合わせ目を閉じた。

ちょっと涙が出てきた。

物静かで優しくって大きい手のお爺ちゃんだった。


私は、母と離れて暮らし我儘放題だった。

しかし怒鳴りつけることなくいつも

諭してくれたお爺ちゃん。


孝行することなく亡くなってしまった。

ある日突然に倒れてそのままだった。

ばあちゃんは、どれほど寂しかっただろうか。

本当に愛し合っている夫婦だったから。


手を合わせ涙を拭いたときだった。


ふわ~っと優しい風が吹いた。

涙が知らぬ間に乾いていた。

仏壇の祖父の写真を見ると、微笑んで見えた。


「お爺ちゃん。」

小さく呟いてみた。


「おかえり」

写真の中からそう声がした。


足元からポカポカとあったかい

光に包まれ体中がポカポカする感覚。

なんとも心地よい

なんだろう?とても眠い




ふう・・・


眠ってしまったのか。


少し体がいたい


あぁ片付けの途中だった。


「か、、しずか。しいちゃん」


ばあちゃんが私を呼ぶ声がする。


急いで階段を下りると

そこは25年前の風景。


25年前に抱っこされてきた、東京 武蔵野の

ばあちゃんちだ。

庭にはバラが綺麗に咲いている。

柴犬のジョンがいる。

庭に爺ちゃんがタバコを吸いながら立っていた。


え?え?


私は混乱していた。

夢を見ているんだ。

昔、あの時の思い出して夢を見ているんだ。


「しずか、よく寝てたね~疲れたのかな?新幹線3時間も乗ってたもんね。

夕飯は何にしようね?」


ばあちゃんが優しく話しかけてくれる。


だめだ・・泣きそう


「しいちゃん泣いてるの?大丈夫またきっとすぐ家族で暮らせるよ。

それまでここにいな~」


ばあちゃんのぎゅ~だ。

ばあちゃんの香りだ。

石鹸とお化粧品の匂い。


なんてリアルな夢なんだろう


なんでもいい。


どうか覚めないでこのまま

もう少し見させて。


「ばあちゃんのクッキーが食べたい。」


「そうかいそうかい、なら小麦粉とバターとチョコチップで

いまから焼いてあげるからね。

しずかにはお茶の煎れ方をおしえてあげるからね。」


クッキーの生地をオーブンに入れて焼き始めると

ばあちゃんは緑茶の煎れ方を私に教えてくれる。



「お湯が沸いたら一度、お湯だけ湯呑に入れるの。

少し冷ましてお茶に湯を入れて茶を出すのよ。甘くなるから。

熱い湯だとお茶は渋く出るんだよ。」


小さな私の手にしわしわの手を添えながら

急須から湯呑へ茶を注ぐ。


爺ちゃんにどうぞと差し出す。


ずずず


「ほぅ、しずかは茶を入れる名人だね」


爺ちゃんのその一言に私はもう嬉しくて嬉しくて

もう一回もう一回と、爺ちゃんのお腹がちゃぽんちゃぽん

になるほどお茶を入れた。


「クッキー焼けたよ~」


ばあちゃんがニコニコしながらキッチンから私を呼んだ。


ただいま25年前

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