第6話井の頭の風

携帯のアラーム音で目が覚めた。


狭いアパート。


私の家だ。


何だか長い夢だったなと顔を洗い

ペットボトルのお茶を飲み干す。


だけど、私はばあちゃん家に行ってたはずじゃ?


とにかく化粧をする。


鏡に映ったのは大人の私。


だけど何だか少し若く感じた。


ピリピリ


携帯が鳴った。


「はい?」


「しずか。武蔵野の爺ちゃん亡くなったよ。」



父からだった。


ああ、爺ちゃんが死んだ日の夢に変わったのか。


父と待ち合わせして東京へ向かった。


ばあちゃん家につくと、

通夜の支度に追われていた。


ばあちゃんは、とても小さくなっていた。

ちょこんと椅子に座りながら爺ちゃんを見つめていた。


「ばあちゃん、何か飲む?」


私は凄く冷静だった。

だけど、とても悲しくて寂しかった。


「しずか。爺ちゃんにご挨拶して。触ってあげて。寂しかったろうから」


父に促され

爺ちゃんの眠る脇に座った。



「爺ちゃん、ただいま。ごめんね中々来なくて。爺ちゃん、ジョンに会えた?2人でお散歩してるん?」


冷たくなった爺ちゃんの頬に触れたとたん


わぁぁぁっと涙が溢れた。


身体中から水分が無くなるんじゃないかってくらい泣いて泣いて気を失った。


目が覚めると、懐かしい匂い。


ばあちゃん家の2階だった。


下へ降りると、

小さくなったばあちゃんが洗濯物を畳んでいた。


あれ、通夜は?


私は、奥の部屋へ走った。


すると、介護ベッドに爺ちゃんが眠っていた。


「爺ちゃん?」


後ろから肩をポンと叩かれた。


ばあちゃんが、洗濯物をしまいながら


「しずかが来てくれてから助かってるのよ。ありがとう」


と言った。


私は、会社を辞め爺ちゃんの介護のために武蔵野へ引っ越したのだ。


あの通夜の日


自責と後悔で爆発してわんわん泣きじゃくった。


やり直したんだ。


こうしたかった

こうするべきだった。


「爺ちゃん、身体ふこうね。キレイしようね。」


私は洗面器に暖かい湯を入れ

タオルを浸し、爺ちゃんの体を丁寧に拭いた。


爺ちゃんは、嬉しそうに笑った。


随分痩せたなぁ。


新しいパジャマを着せて


固くなった手足をマッサージする。


あんなに大きいと思っていた爺ちゃんの手は、細く華奢になっていた。


ばあちゃんは、ソファに座りながらウトウトしている。


「そと、おそと」


爺ちゃんが絞り出すように話した。


私は、爺ちゃんを車椅子に乗せ

庭に出た。


昔爺ちゃんはいつも、タバコを吸いながらここから街を見ていた。


爺ちゃんにブランケットをかけ、

私は隣に椅子を置いて2人で武蔵野の街をながめた。


心地よい風が吹いていた。


爺ちゃんの手をぎゅっと握った。


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