第4話ロマンスの神様
ばあちゃんが作ったおにぎりが
テーブルに並んでいた。
今夜は友達とお芝居を見に行くから
ばあちゃんは、遅くなるらしい。
爺ちゃんとジョンと留守番だ。
私は、こっそりばあちゃんの化粧台の
化粧品を取り出す。
お粉のファンデーションやシャネルの香水や赤い口紅。
大人に憧れて女の子なら、みんな
化粧品を勝手に触ったり使った事があると思う。
「さ、支度しなくっちゃ」
なんて1人芝居をしながら。
パタパタとファンデーションして
口紅をぬりぬり。
まつ毛をあげるビューラーを使うのは、少しドキドキした。
マスカラも瞼についてしまう。
だけど鏡をみて
とても満足してしまうのだ。
「おやお嬢さんデートかな?」
爺ちゃんが笑いながら覗いていた。
「デートってなんなん?デートやりたい」
私は、爺ちゃんにとびついた。
「そうだね、しずか喫茶店へ行ってみるか」
「喫茶店?いきたい!いきたい!」
「よし、お嬢さん準備はバッチリだね。だが口紅だけは拭いて行こうか。」
爺ちゃんは、ティッシュで口をゴシゴシすると笑っていた。
2人で手を繋いで、
吉祥寺へ向かった。
オシャレな大人たちが沢山いて
私はすっかりおのぼりさんだった。
ばあちゃんが作ったビーズのポシェットを持ってお姉さんみたいな顔つきで歩いた。
「ああ、こんにちは」
お花屋さんのおじさんが、爺ちゃんに声をかけてきた。
「こんにちは。孫娘とデートなんですよ。」
おじさんは、それは羨ましいな〜と言って私の頭を撫でた。
「お、そうだ。そのガーベラを1輪ください」
綺麗なオレンジ色の可愛いお花を
爺ちゃんは可愛くラッピングしてもらうと
「さあ、お嬢さんお花をどうぞ」
と、私にプレゼントしてくれた。
キャッキャと喜びながら爺ちゃんにとびついた。
「なんでおはなくれたん?」
「女性とデートする時、
お花をプレゼントするのがいいんだ。」
爺ちゃんは、ふふんっと笑った。
喫茶店についた。
髭のおじさんがマスターの古い喫茶店だった。
「いらっしゃい。おや、随分若いガールフレンドですね?」
「こんにちはぁ!しずかです!」
私はすっかりハイテンションになっていた。
爺ちゃんは、ホットコーヒー
私は、カフェオーレを頼んだ。
トランペットを吹いてる人のポスターがたくさん飾ってあった。
その中に1つ、
金髪の綺麗な女の人の写真があった。
「この人はトランペットしてないのー?だあれー?」
マスターに尋ねた。
「ははは。そのひとは、トランペットはしてなかったんだよ。僕のお嫁さんだった人だよ。」
「おっちゃんのお嫁さん?今はおるすばんしてはるのん?」
「いまは、天国にいるんだよ。」
私は、あ!っとして
爺ちゃんの顔を見た。
いけないことを言ってしまったと思ったからだ。
爺ちゃんは、ポンポンと頭を撫でた。
「もう何年かな、奥さん亡くなって。」
爺ちゃんが、マスターにタバコの火をつけて貰いに行きながら聞いた。
「お、はい、灰皿。」
マスターは、爺ちゃんに灰皿を渡した。
「もう、35年だね。息子が生まれてすぐだったからね。」
「35年か。随分たったけれどエリカは美しいままだね。僕らはすっかり年寄りになってしまったがね」
「おっちゃんさびしい?」
「...ああ、とっても大好きだったから。すごく寂しいよ。だけど喫茶店があったから色んな人とお友達になれたから寂しくないさ。」
マスターと爺ちゃんは、目を合わせ
はははっとわらった。
私は、何かよく分からないけど
胸の真ん中あたりが
キューっと痛くなった。
そして、暖かくなった。
「しずかちゃんもいつか愛する人が出来たら一緒にコーヒーを飲みに来ておくれよ。」
「うん!」
マスターは、
奥さんが亡くなってから1日も喫茶店を休んだ事はない。
喫茶店は、奥さんの夢だったからだそうだ。
「ご馳走様」
お店を出る時。
私は、オレンジ色の可愛いお花を
奥さんの写真の前にそっと置いた。
爺ちゃんは、ニッコリわらった。
マスターも、小さく
ありがとう。と言ってくれた。
帰宅して
爺ちゃんとばあちゃんの作ったおにぎりを食べた。
美味しいねって言いながら
3つ食べた。
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