第4話:いきなり告白してみよう

「そういうわけよ、うっちー」


「え?…………どういうこと??」


 放課後カフェに寄った楓と中田は、先程衛藤からもらった助言を元に、これからの行動目標を定めていた。


「つまり、明日楓は告白するの」


「!?!?!?!?!?」


 え???え???どうして……なんで……??納得のいかない楓を差し置いて、中田はコーヒーを飲みつつ根拠を語り始めた。


「衛藤だって言ってたでしょ?相手が鈍感で全く気付いてもらえないならもう告白しちゃえって。告白しちゃったら嫌でも意識はうっちーに向くよ。そしてゴールイン!」


「でも……私男の人に告白した経験なんて一回もないし……そもそもアタックだってしてないのに……」


「その辺は私もそう思ったわよ。確かに土橋はイライラするほど鈍感だけど、あんたもあんたでイライラするほど内気だからアピール不足な点は否めないよ。でもまあ、あれだけモテる衛藤が言うんだから間違いないのよ、多分」


 無論だが、衛藤は中田が土橋のことを好いていると勘違いしている。そして中田の性格上、土橋を睨みつけて威嚇できるほどの意思表示は可能と踏んでこのアドバイスをしているのだ。まあそんなこと、言ってないから伝わらない。


「そうなのかな……」


「そうに決まってる!だって衛藤って、3年の可愛い人みんな落としたんだよ!?」


「すごい……」


 神は知っている。落としたのではなく全員向こうから衛藤に寄ってきたのだと。


「彼は恋愛のスペシャリストなのは事実よ。悔しいけど」


「信憑性があるってことだね……」


 神は知っている。衛藤から告白した人なんて過去1人しかいないということを。


「だからこれが1番最善ということよ。少なくとも彼氏いない歴=年齢の私達の意見より信用できると踏んだのよ」


「わかった…………怖いけど…………怖いけど…………」


 神は知っている。ここで爆死ぬ運命ではないと……まあそんな神の忠告など聞く耳持たないのが人間という輩だ。だからこそ御し易く御し難く面白いのだが。


「私、土橋くんに告白する!!」


 こうして楓は彼に告白することを決めた。耳を真っ赤にしたまま、彼女にしては大きな声で宣言した。中田はそんな楓を見て全力で拍手をした。


「偉い!!! 偉い!!! 応援してるぞ!!! そうと決まれば作戦を練らないと!!」


 中田はそう言って手帳を開いた。


「まずは、呼び出し方。直接声をかけるのは無理?」


 首をブンブンと縦に振る楓。


「……まあ、わかってたわよ。期待もしてなかったし。じゃあ呼び出し方は手紙? どうせメアドなんて知らないでしょ?」


「裏垢のDMじゃダメかな?」


「いやダメでしょ。一体どこの誰がTwitterのDMで呼び出すの……」


「あっ……これフォローしないとDM飛ばせない……」


「いやそういうことじゃないでしょ!?!?」


 どうにも世間知らずだなあと中田は思った。まあ慣れてはいるが。


「もしくは私が呼び出しても良いけど……あいつ色々と曲解しちゃうから微妙なのよ」


 首を縦に振った楓。どうやら楓自身も彼の鈍さには定評があったようだ。


「仕方ない。やっぱり私の口から言うよ。どこに連れてったら良い?」


 今度は場所決めである。既に辺りは暗くなりつつあったが、それでも2人の間には明るい空気が流れていた。


「そもそも学校? それとも放課後? どっちで告白したいの?」


 中田のその言葉に楓はびくっとなってしまった。学校か、それとも放課後のどこか……


「…………わかんない…………」


 とても長考した上での答えだった。だからこそ中田もどてどてって転びそうになった。


「わかんないって何よ!!!!」


「いやだって、告白なんてしたことないし……その類の本とかも読んだことないし……中田さんは、知ってる?」


 しかしこう聞かれると弱いのが中田。忘れてはいけない。彼女だってその辺のバージンなのだから、男の子の要望も女の子のらしさも何も知らなかった。


「……うーん、ベタなのは屋上とか体育館倉庫とかよ。でもうちの学校、屋上は危ないからって施錠されてるし、体育館裏はゴミ捨て場になってるから……楓も流石に嫌でしょ?」


「生ゴミ臭う告白……」


 論外である。


「放課後だったら……どうよ??」


「公園とか?」


「あるある。あとは夜景の綺麗な場所とか?」


「この辺なら……六甲まで行かないと!」


「なんであんた告白するのにわざわざ電車3つ乗り継いで行くのよ。っと言ってもこの街に夜景の綺麗なところなんて思いつかないし、この線は無しよ」


 そう言いつつ中田は手帳に書いた夜景という選択肢に二重で線を引いた。屋上も体育館倉庫も同じ理由だ。たまに遅くまで溜まり場とかしているから、放課後の教室もまた狙えない。だとしたら……


「ロジックで考えると、公園ね」


「それじゃあ私、公園に誘う!」


 そうして楓は、明日の放課後に公園に呼び出し土橋くんに告白することになったのだった。この時点でもう夜の8時前。8時に門限のある中田の都合もあり、ここで一度お開きとなった。そして楓は、あることを聞きそびれたことに気づく。


(この辺の公園って、どこ!?)


 そう、うちの高校には近くに公園がいくつもあったのだ。それを一つに絞って暗に指示できるのだろうか。楓は不安だったが、しかしやるしかなかった。あの超絶プレイボーイ衛藤くんが楓のためにアドバイスしてくれたのだから、報いることこそ恩を返す正系だ。実際はまあ、あれだけど。


 そして次の日、楓と中田は朝から出鼻を挫かれた。なんと、まさかの、土橋赤葉の欠席である。

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