第3話:どうしてこうなった

 さあでどうしてこうなってしまったのだろうか。中田はとても後悔していた。彼女は放課後に椅子に座って周りに囲まれていたのだ。


 かつあげにあいました。たすけてください。


 これだったら全然良いのだろうが、実際はそうではない。強いて述べるなら冤罪裁判だ。


「そう言うわけで中田」


「どういうわけか説明してよ??」


 中田の訴えを土橋は退けて、彼女の右斜め前に座った。左斜め前には楓が、そして正面には衛藤が座った。


「そういうわけだ中田」


「いや理由になってないから」


「お前の目の前に座っているのは百戦錬磨の超絶モテボーイ衛藤だ」


「そのやる気のない低い声で俺を紹介するな。そして俺はモテない」


「付き合った数は実に15人!!」


「20人の間違いだふざけんなクソやろうしばくぞ」


「いや15人でも20人でもどうでも良いのよ……」


 混乱しないように付け足しておくと、中田は勘違いされているのだ。どういう勘違いなのかというと、彼女には好きな人がいて、その相談をしたいから土橋に声をかけたのだという。誰がこんな勘違いをしたのか?


 勿論土橋赤葉である。


「いや中田がさ、どうしても恋愛について聞きたいことがあるって」


 言ってねえよ!!!!


「ほら衛藤は経験豊富じゃん」


 いやそんなことないけどな。


「だから聞いてみたら良いんじゃね?あ、俺ら離れた方がいい??」


 えっ!?!?!?!? えっ!?!?!?!? 土橋くんが土橋くんが腕を腕を腕を腕を腕を持って持って持って持ってどうしようどうしようどうしよう……………………


「や、そこに居てくれる?」


 そう言われて土橋は無意識に掴んでいた楓の手を離して、席に戻った。楓はもうノックアウト状態だった。


 はああああああああ土橋くんの手が………………土橋くんの手が………………好きぃ!!!!!!!!


 こんな感じだ。楓は初めて同年代の男の人に腕を掴まれ、しかもそれが好きな人ということもあり、目にハートを浮かべて半分失神してしまった。


 はああああああああ…………


 同じはあでも、中田のはため息だった。どうしてこんなことになったのか……この男は超がつくほど鈍感なのだ。今目の前で解釈違いを必死に訴えているというのに、土橋は全然反応してくれないのだ。


 いや、まてよ……中田はここで思いついた。


「これはさ、友達の話なんだけどさ……」


 今失神している友人の話を、ここでしようと。しかし彼女はひとつだけミスを犯したのだが、彼女は気付いていなかった。


「1年前に恋に落ちてから、ずっとその人を想い続けているのよ。でもその子は内気なの。中々アピールが出来なくて苦しんでるのよ。話すこともできなくて、その人から全然見向きもされない。そんな状態で1年経過しちゃったのよ」


「えっ……」


 楓は少しだけ声を漏らした。自分のことだと気付いたのだろう。中田はここで少し上目遣いになりながら、目の前に座っていた衛藤ではなくその隣に座っていた土橋を睨みに行った。


「しかもその男も鈍感なのよ!! 鈍感過ぎて苛々しちゃうくらい!! だからいつまで経っても進まないのよ!! どうすればいいのかなあってね!! そう思う!! のよ!!」


 土橋はまさか自分のことを言われていないだろうという涼しい顔をしていた。いやいや自分のことだと思って聞けよコラ!!! 衛藤挟んだ向こうの楓は自分のことだと自覚してからか耳まで真っ赤になってんだぞ!!!


「ねえ、どう思う?」


 このまま適当に話して流れてしまえと中田は衛藤にシグナルを送った。しかしここで彼女の失策が響く。中田は最初にこう言ってしまった。恋愛相談における、禁句となる一手を……


「これは友達の話なんだけどさあ……」


 なるほど、中田自身の話か……衛藤はこの発言だけでそう判断してしまった。友達の話と切り出す奴は大抵自分の話なのだ。この法則は基本的に当てはまる。基本的に。


 中田には1年間片思いしている奴がいる。そいつはとても鈍感だ。そしてさっきから土橋に何か因縁をつけるような話し方をしている……衛藤の頭で物語がロジック的に構築されていく。そしてこんな結論に至ったのだ。


(中田は土橋のことが好きなのか……)


 かなりの思い違いである。


(しかしここで中田に正直なアドバイスをしてはいけないのではないか? いやこんな形で土橋も交えて呼んだのだから、相手にバレることも承知の上なのだろう……つまり!!)


「とりあえず告白したらいいんじゃない?」


「お前マジで適当だな!!!」


 中田の絶叫が、衛藤からしたら照れ隠しにしか見えなかったのである。フィルターとは怖いものである。


「いやいやもうそんなに鈍感で気づいてくれないなら、告白するしかないんじゃね? それもしっかりとした声で好きですって」


「な、なるほど……」


「もうそれしかないって」


 そう言いつつ土橋を見た衛藤だった。土橋は……自分のことを言っているとは全く思っていなかったようで、


「お、もう結論出たのか?」


 とボケた発言をしていたのであった。これには衛藤もため息である。

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