自殺の準備
だが7月のある日、その日は突然やってきた。いつものようにまゆをすずが他愛もない会話をしているとすずがこう切り出した。
「......まゆちゃん、あのね。私転校することになったの」
「え......」
「夏休み中に引っ越して、新学期からは新しい学校に行くんだ」
「そんな......すずちゃんがいなくなったら寂しいよ......」
「ごめんね。今まで仲良くしてくれてありがとう」
まゆは焦った。中3のこの時期から新しいグループになんか入れる訳がない。おまけに学年全体が受験モードでピリピリし始めている。今度こそ本当に独りぼっちになる。
「......まゆちゃん?」
「あ、ごめんね。その、急な話で驚いて......」
「そうだよね。でも私まゆちゃんと沢山話せて楽しかったよ」
翌日のホームルームでも先生からすずの転校の話が出た。すずは人気者だっただけにみんな悲しんだ。そしてすずの為に心ばかりではあるが色紙やプレゼントを用意しようということになった。
準備は着々と進んでいき、遂にすずの最終登校日となった。生徒の中には涙ぐむ者もいた。一番仲の良かった生徒ということで色紙とプレゼントの贈呈には私が選ばれた。こうしてすずは行ってしまった。
夏休み。受験生なら本腰を入れて勉強するはずだがまゆはまったく身が入らなかった。夏休みが終われば独りぼっちの生活が待っている。そう考えると鬱になり、何もやる気にならなかった。それでも両親には心配をかけまいと二人の前では明るく振る舞った。
夏休みが明け、最初の模擬試験でまゆの成績は若干下がってしまった。夏休みを振り返れば当然の結果だがまゆは少々落ち込んだ。友達もいない、成績も下がってしまった、スポーツこそそこそこ出来るが推薦を貰えるほどではない。これでは自殺する動機としてぴったりだ。まゆは日に日に自殺願望を強めていった。そしてますます他のことには身が入らなくなっていった。
そんなまゆが具体策を練るのに最良の機会が到来する。受験漬けの授業の息抜き、道徳の時間だ。この日のテーマは「自分が想う最高の自殺の仕方」だった。最近ぼんやりしていたまゆは熱心に取り組んだ。そして実行が容易で可能で死体に傷跡も付かなそうなやり方を書き上げてみせた。それは以下のようなものだった。
目的:綺麗な死体で苦しまずに死ぬこと。
課題:誰にも見つからないこと。途中で嘔吐の可能性があること。
現状:孤独、落胆、絶望
手段:カフェイン剤によるオーバードーズ。
結果:意識を失った状態で発見される。周囲には薬の瓶が散乱している。遺書が手元に残されている。
手段の詳細:
遺書を書く
カフェイン剤と水を入手する
夜、家族が寝静まった後もしくは一人になれる場所に必要なものを準備する
嘔吐しないように始めは一気に、終盤はゆっくりとカフェインを摂取する
担任からは実に具体的でかつ美しさを求めた計画だとして大いに褒められた。褒められたということは実現可能なものだと判断した私はこれを実行することにした。それに今やれば史上最年少記録を更新し、親にせめてもの孝行が出来る。善は急げということで放課後早速準備にとりかかることにした。
家に財布を取りに帰った後、親にはコンビニにノートを買いに行ってくると嘘をついて薬局に向かった。そこでカフェイン剤とダミーのノートを購入した。ダミーだが遺書を書くのに使えるだろうということで良しとした。
帰宅し食事を終えると勉強するふりをして先程買ったノートに遺書を書いた。
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