実行

 遺書を書き終わるとそわそわと落ち着かなくなった。家族が寝静まるまでは起きていなけばならない。仕方ないので無意味だが受検勉強をすることにした。

日付が変わる頃。母親が様子を見に来た。


「まゆ、まだ頑張るの?」

「うん。成績落ちちゃったし、挽回しないとね」

「そりゃ悲しいのはわかるけどまだ受検まで5か月あるんだからね。あまり無理しちゃ駄目よ」

「うん。お父さんとお母さんはまだ寝ないの?」

「いいえ。私はそろそろ寝るわ。お父さんも机周りを片付けていたし、そろそろ寝るんじゃないかしら」

「そっか。それじゃあ先に寝てていいよ。おやすみ」

「ええ、ありがとう。まゆも早く寝るのよ。おやすみ」


 これが家族との最後の会話となった。父親と話せないのは少し残念だったが、変に怪しまれる訳にもいかないので諦めることにした。


 夜中1時を回った頃、まゆは両親の寝室を回りに行った。母親はすやすやと眠っていた。父親は寝返りを打ったので一瞬起きているのかとヒヤリとしたが眠っているようだった。


 よし、これで準備は完璧だ。まゆは音を立てないように台所に向かう。そして2ℓの水を持って来た。忍び足で自室に戻り、扉を閉める。床に座り、その前に遺書を開く。心臓は五月蠅く早鐘のようになっていた。興奮して震える手でカフェイン剤の蓋を開ける。同じ手で水の蓋も開ける。そして計画していた通り、始めは一気に20錠くらい流し込んだ。間髪入れずもう1回。

 

 合計5回はそれを繰り返した頃だろう。頭がズキズキと痛みだした。このままでは吐く、吐いたら無駄になる。そう思って今度は5錠くらいずつにペースダウンした。頭痛は全く収まらない。それでも少しずつ、カフェインを摂取していく。頭痛はいよいよ増してきた。頑張れ、もう少しだ。最初のペースダウンから更に緩やかにはなっていたけれどもカフェインを飲み続けた。すると、急に幻覚が見え始めた。幼い頃の思い出から現在に至るまで、まるでもう一人の自分が見ているかのようにその光景を眺めていた。それが走馬灯だと気が付く頃には床に倒れこんでいた。カフェイン剤はあと少し残っている。最後にそれを一気飲みするとまゆは意識を失った。

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