記録の更新
とある1月の朝、起きると家がなんだか騒がしかった。新聞を取り囲み、テレビのニュースを全員が食い入るように見つめている。
「......おはよう。どうしたの?」
「まゆ、大変よ。昨日中学3年生が自殺したらしいのよ。ついに中学生の自殺よ。これで記録が塗り替えられたわね。なんて勇気ある子なのかしら。素晴らしいわ」
「......中学生が? どこで?」
「それがなんとこの町なんだそうだ。まゆの学校とは違うみたいだが、かなり近いぞ」
父も母も興奮していた。
「どうやら練炭でガス中毒死したみたいだな。死体は眠っているようでなんとも綺
麗だったらしい。この国で史上最年少だなんて、親御さんは誇りだろうな」
「練炭かー。場所選ばないようにしないと誰かにばれて失敗しそうだよね」
「それをばれずに遂行したのも素晴らしい。よほど計画性のある実行だったんだろうな」
「まあ、最年少の自殺も素晴らしいけどうちのまゆは別の意味で自慢だもの。だからまゆは変に気負わなくていいからね」
まゆの母親は若干親バカだった。今回の自殺にほだされてまゆも自殺しなさい、なんて言が、なんとか友達も出来たので今自殺するのは不合理だと思っていたからだ。
学校でも近隣の中学生の自殺は大盛り上がりだった。
「うちらとほぼ同い年とかやばくない?! まじ神だわー」
と称賛する声、
「次記録更新するなら今の内だよなー」
なんてふざける声、
「自殺したやつ、西地区の中学だってよ」
と新たな情報をひけらかす者、
「ねえー、次誰かやらない?」
なんておどす者、様々だった。
私は普段通りに振る舞おうと翔子の元へ行った。
「翔子ちゃん、おはよう」
「おはよう、まゆちゃん。みんな騒いでるけどさ、やっぱりこの年で自殺するなんて凄いよね!私まだ勇気出ないよー」
読書が好きと言っていたのでこういった話には興味がないのかと思っていたので意外だった。私は一時期当事者になろうとも考えていたのでなんだか気まずかった。しかしそれを悟られないように頑張ってテンションを合わせることにした。
「そうだね、私だったら苦しんで死ぬのは嫌だな。だから練炭自殺を選んだことは凄いと思う」
「そうだねー、でも死体が汚いのも嫌だから私は首吊りは却下かなー」
「綺麗で楽な死に方って何なんだろうね」
そこまで話した所で担任が入ってきて、ホームルームが始まった。
「えー、みんな話したいことはあるだろうがまずは事務連絡だ。今日から美化強化週間が始まるから掃除には力を入れるように。どこか校内の異常を見つけたらすぐ知らせるように」
担任の顔はいくらか汗ばんでいるように思えたが淡々と連絡事項を伝えた。
「今日の事務連絡は以上だが......勿論みんなわかってるな?」
クラスの雰囲気が高揚した。
「西地区の中学3年生が自殺した。これは日本の最年少記録になった。死因は練炭によるガス中毒死だそうだ。遺書が見つかり、動機は受検へのプレッシャーだそうだ。」
遺書の話は誰も知らなかったようでクラス中がどよめいた。
「どんなプレッシャーのかけ方だったかはわからないが、苦悩からの逃亡手段としてこの年で自殺を選んだのは誠に讃頌すべき行動だ。だがもしお前達も何か悩み事があったらすぐに自殺に走る前に一度相談して欲しい。そうすれば俺はお前達の為に最高の舞台を用意出来るよう全力を尽くすつもりだ。最後に、彼の自殺を励みに、お前達も最高の人生の終わり方を考えてみて欲しい」
担任はそう締めくくると教室を出て行った。
最高の人生の終わり方か。私は何を選ぶんだろうな。まゆはぼんやりと、でも確かに自分が実行する時の様子を思い描いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます