救いの手

 ある日の昼休み、まゆは教室で一人読書をしている女の子を見かけた。周りには誰もいない。もしかしたら一緒にいる仲間になれるかもしれない。まゆは勇気を出して声を掛けてみることにした。


「何の本読んでるの?」


喋るのが久しぶりかのような声だった。話しかけられた相手はよほど本に集中していたのか、酷く驚いていた。


「『フランス人は10着しか服を持たない』っていう本だよ。今流行りのミニマリスト的な内容なんだ。面白いよ」


「ミニマリストになりたいの?」

「うーん、ちゃんと考えたことはないけどシンプルな生活って憧れるな」


まゆは嬉しかった。まだちゃんと人と話せるのだ。話が弾むと、彼女は読書をするのが好きらしく、一人でいることも多いらしい。友人が作れるかもしれない。自信が出てきたまゆは嬉々として申し出た。


「あのね。良かったら友達になってくれないかな?」

「もちろん良いよ。これから宜しくね、まゆちゃん」

「え?どうして私の名前......?」

「だって転校してきて最初の挨拶で自己紹介してたじゃない。」

「覚えててくれたの?ありがとう!凄い嬉しい......!」

「ふふ、みんな覚えてると思うけどね。でもどういたしまして」

「ごめんなさい、それでえっと、あなたの名前は......?」

「翔子。長谷川翔子だよ。」

「しょ、翔子さん、よ、宜しくお願いします......」

「何で敬語なの。友達なんだからタメでいいよー」

「......翔子ちゃん」

「うん、そう。宜しくね」


こうしてこの町でまゆに初めての友達が出来た。いつものまゆだったらなんでもないことなのにとても嬉しかった。季節はすでに10月になっていた。


 二人はあたかも小学校来の友人かのように接するようになった。移動教室では必ず一緒に行動し、昼休みは一緒に食事を食べ、授業での班決めでは必ず二人一緒に組むようになった。しかしもともと一人が好きな翔子だったので、休日は自分の時間が欲しいということで共に過ごすことはなかった。その点だけはまゆも寂しかったが、初めてのタイプだな、と思い我慢することにした。

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