新たな生活

 果たしてそんなことは起こらなかった。クラス替えの結果張り出しを見に行くとまゆは4組、翔子は1組と最も離れていたのだ。


「翔子ちゃん、クラス離れちゃったね......」

「何絶世の別れみたいな顔してるの。会えるんだから大丈夫だよ」

「うん、そっかあ......」


しかしまゆの心は憂鬱だった。いくら休み時間等に会いに行けるとはいえ今までのように四六時中一緒にいることが出来ない。昼休みは会えても教室外の食事は禁止されてる為一緒に食べることは出来ない。移動教室は?授業のグループ分けは?心配事は尽きなかった。


 新しいクラスに入って恒例の自己紹介や委員会決めなど、まゆはずっと上の空だった。早く一緒にいてくれる人を見つけなければ。そればかり頭に浮かんでいた。また、早く休み時間にならないものかとも思っていた。そうすれば翔子に会いに行ける。少しはこの気持ちが楽になる。


 委員会は適当に広報委員に入り、チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した。1組までは全力疾走だった。先生がいたらきっと怒られていただろうが幸い一人も合わなかった。1組に着き、扉を開けて翔子の姿を探す。しかし目に飛び込んできたのは一人読書をしている翔子の姿だった。その姿を見てまゆは悲しさに襲われた。遊びに行くって言ってたのに。私より一人でいる方を選ぶの?


「誰か探してるの?」

人の良さそうな女の子が訊いてくれた。しかしまゆは

「いいえ、大丈夫です。」

と答え1組を後にした。


 さて、これからが大変だ。翔子が頼れないとなると尚更急いで一緒にいてくれる人探さなかればならない。新しいクラスになって2日目からまゆは必死で色んな人との交流を図った。しかし昨年同様、小学校からたの結びつきが強いこの学校ではどのグループにいてもまゆはどこか一人だった。


 新学年になって1ヶ月が経った。相変わらず翔子は遊びに来てくれなかった。廊下ですれ違えば笑顔はかわすものの積極的な交流はしてくれなかった。そしてクラスでは相変わらずまゆは独りぼっちだった。昨年と違うのは多くのクラスメイトに並大抵でないほどの意思で接触を試みたお陰か、クラス全員の顔と名前を覚えたくらいだった。


 ある時一人の女子生徒が凄い量の冊子の束を運んでいた。確か同じクラスの円谷すずだ。彼女はグループを作らなかったが誰とでも仲良く出来る子だった。彼女の周りには何故かいつも違う子がいた。冊子の量はとても女子生徒一人に任せる量ではなかったので声をかけた。


「手伝うよ?」

「あ、ありがとう。腕がそろそろ辛くて」

「何でその量一人で運んでるの?」

「これ係の授業で新しく使う教材なんだけど、今日もう一人の係の子が休みだから」

「そうだったんだ。先生も手伝ってくれたらいいのにね」


 そんな会話をしながらまゆはふと思った。彼女はグループを作らない。でも誰とでも仲良く出来る子だ。この子に話しかけていれば一人にならずに済むのかもしれない。


 その日から早速まゆはすずに積極的に絡みに行くようにした。話題がない時でもなんとか用事を作り出して話しかけに行った。昼休みは毎日お昼ご飯に誘った。それが功をなしてか、1ヶ月も経つ頃にはすずは常に一緒に行動してくれるようになった。これでみんなから仲間外れの目を向けられずに済む、とまゆは一安心した。

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