そして僕らは

 キヨの死因は、急性心筋梗塞だった。辛かったろうね。死にたくなかっただろうね。僕のためにストレス溜めちゃったのかもね。ああ、僕の寿命をあげてやりたかった。そんなことはできないんだけど。


 お葬式も、山田君にいろいろお世話してもらった。謝礼はたっぷりあげたつもりだ。


 僕はこの家に一人になった。(〈独り〉って書いた方がいいかな? よく分かんない。「キヨ、教えて」って言っても、もはや答えはない――)もう誰かの世話になるつもりはない。毎日テーブルの上のキヨの写真を見ながら、カップヌードルを食べた。そして、〈いつまでこうして生きているんだろう?〉そんなことばかり考えていた。


 やがて僕は糖尿病になった。日頃の食生活による、当然の帰結だ。キツい。苦しい。今度こそ本当に、いっそ死んでしまいたい。人工透析のために通院しつづけた。症状は重くなり、やがて入院した。


 僕は仕事のやりがいや苦しみも、性の快楽も苦痛も、恋愛の楽しさもくだらなさも、ほとんど知らずに、今死のうとしている。生まれてきたってのに、何をしてたんだろう? 損だ! 屈辱だ! クソ! 僕は不幸だ! 何にもしてない! Fワードふぁっく!!!


 だけどようやく今、人生で初めて頑張っている。相手は糖尿病だ。皮肉だ、こんなことで頑張るなんて。神様ひどい! 合併症もいくつか来ている。いよいよ追い込まれたってわけだ……。


 ――うーん、いいねえ……いいねえ? あれっ? なかなかいいねえ!! ノッてきたー!! 仕事とか女とかよりも、おもしれえじゃねえかー!!!


 そんなわけで、闘病にやりがいを感じ、結構ハイな気分で(モルヒネの影響も少しはあるかもしれないけど、あくまで少しだろうさ)、約1年後に、64歳で死にました。When I'm sixty-four! ルン、ルンビートルズの曲のリズムで


 あの世に行ったら、いろんな人に会ったけど、久々にキヨにも会えた!

「あら、坊っちゃん、あちらの頃とは別人のようにいい笑顔ですね」

「ありがとう。でも君こそ素敵さ、キヨ、my love――」


 よく耳にしてはいたけど、ホント身近なところに宝石はあるものだね。生きてるうちは気付かなかったけど、キヨだったとは! 天国では坊っちゃんとか女中とかいう身分の差も、もちろん歳の差も関係ない。僕たちはこっちで結ばれましたとさ(^_-)-☆


 ちゃんちゃん、とさ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

坊っちゃんとして、裕福さに翻弄されるばかりの、彼の巡礼の年 ひろみつ,hiromitsu @franz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ