さくらのはなびら

長月そら葉

さくらのはなびら

 あの日のことは、今でも覚えている。

 そう言ったら、あなたはどう思うのかな?


「これ、やるよ」

「え?」

 少年はそれだけ言って、友だちと昇降口に行ってしまった。

 手の中を見れば、吹いて飛んでしまいそうな桜の花びらが一枚。

 他にも花ごと落ちているものもあったのに、少年はそれを差し出した。

 少女は少年を追うこともできず、ひとりで取り残される。

 そして、花びらを大事そうに握り締めた。

 決して、潰さないように。壊さないように。

 ポケットに入れてしまえば、落ちた時に見失う。

 花びらをそのままに、少女は教室へと向かった。

 昼休みはまだ終わらない。少年もまだ校庭だ。

 少女は辞書を引っ張り出して、自由帳を引っ張り出して。

 白い紙に花びらを貼り、辞書の間に挟んだ。


 たったそれだけのこと。

 それでも、少女は今も、それを忘れられない。


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