紙ヒコーキ

持野キナ子

紙ヒコーキ

 ある晴れた日に、私はその男の人に恋をした。

 その日は、雲一つなくて風が強い日だった。




 いつもは、パン屋の前を通って丘を越えて家に帰る。でもその日は、入ったこともない小さな花屋に何となく入ってみた。そこでその男の人に恋をした。

 背は普通くらいで、少し静かそうなんだけど、優しそうな笑顔をした男の人だった。



その日から、毎日、花屋に行くようになった。

「行く」といっても、散歩の帰りに花屋を覗いたり、花屋がある通りを歩く程度だったけど……。

 花を買ったら、あの人が私と目を合わせて微笑みを浮かべるかもしれない。









「すいません! これください」

「はい、分かりました」

「あの……」

「はい?」

「あの……凄く素敵ですね!」

「花のことですか?」

「いいえ……あなたがです」

「え?」

「私、ずっと気になってたんです。凄く素敵だなーって。あなたが好きなんです!」




 

 でも、そんなに現実は甘くない訳で……。私は花を買うことすら無理だった。その日は雲一つなくて風が強い日だった。

 家に帰った私が、部屋の窓から外を見ていると、誰が飛ばしたか分からない紙ヒコーキが飛んで行った。

 真っ直ぐ遠くに飛んで行って、とうとう見えなくなってしまった。

 私は、「自分も紙ヒコーキの様に、真っ直ぐな性格だったら良かったのかな」と思った。

 その時、何故か紙ヒコーキを作って、そこに「好き」と書いて窓の外に飛ばした。




 この紙ヒコーキが、あなたの心に伝わるのを願って、青空に向かって力いっぱい飛ばした。




 紙ヒコーキは愛を伝えるものなのだ。







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