3話「魔王女フィアとの決闘」

「この程度の雷がどうした!」


 フィルリークは、自分に向けられた雷球を剣による横一閃で真っ二つにした。

 切り裂かれた雷球は、室内の壁、床に当たると激しい音を立てながらそれらの場所を破壊した。


「おぉ、フィアよ、部屋を壊すのはよしなさい」


 魔王ハーデスは、室内だろうが容赦の無い戦闘を繰り広げる魔王女フィアを止めようとするが、

 

「うるさい! 人間如きに我等魔族が負けてたまるものですか!」


 どうも、魔王女フィアは例え牽制の攻撃とは言えあっさりと迎撃された事に対してプライドをかなり傷つけられている様で随分と荒れた口調へ変わっている。

 

「のぉ、女神殿」


 このままではフィルリークが自分の娘の手により殺されないかと心配になった魔王ハーデスが女神に尋ねた。


『分かってます、貴殿の娘が死な無い程度にフィルリークの魔力を戻します』


 魔王ハーデスが思っている様に、フィルリークに万が一が有り得ると判断した女神アルテイシアは、彼の意図を汲み取り一時的に封印していたフィルリークの魔力を開放した。

 

「お前、魔法使いか? こんな狭い所で戦って不利じゃねぇのか?」


 魔王ハーデス達の思惑なんかどこ吹く風と言わんばかりに互角の勝負をしてやろう、とフィルリーク。


「人間の分際で生意気を!」


 フィルリークの打診が、かんにさわった魔王女フィアが『雷嵐サンダーストーム』を放つ。

 フィルリーク達が居る室内に轟音をまき散らしながら激しい雷と猛烈な嵐が巻き起こる。


「おぉ、フィアよ……」


 魔王ハーデスは慌てて魔防術マジックシールドを展開し、身体を縮こませながら防御態勢に入る。

 

「随分とやってくれんじゃねぇか!」


 フィルリークは襲い来る嵐により宙に浮かされるが、身体を上手く制御し態勢が崩れる事は回避する。

 続いて迫り来る雷に対し盾で受け止め剣で切り払う事で、フィアの放つ魔法を捌ききった。


「今度はこっちの番だ!」


 今度はフィルリークが、フィアに向かい強襲、懐に潜り込み剣による連撃を放つ。


「ハッ! 遅いんだよ、人間が!」


 フィアはフィルリークの連撃を鮮やかに回避し、蹴りによる反撃をするがフィルリークが盾を使い受け流した。


「ただ魔術を扱えるだけの雑魚じゃねぇみてぇだな!」

 

 フィルリークは、聖なるオーラを剣に集めフィア目掛け鳥の形をした巨大な白いオーラを放った。

 フィアは地面に飛び込みながらもその身を伏せる事で回避を試みるが、完全に避け切る事は出来ず左肩を掠めてしまった。

 フィアへの命中に失敗したフィルリークの技は壁に当り、派手な音と共に崩れさせ外界を流れる風を室内に呼び寄せる事になった。


「チッ、私が魔族でなければその程度ッ!」


 ハーデスも言った通り、魔族であるフィアも聖属性が苦手である様で一見する限りかすり傷程度に見えるが本人の様子を見る限りそれなりのダメージを受けている様だ。


「へっ、俺の技を避けるとは、魔王女の名は伊達じゃねぇんだな!」


 フィルリークは、自らが空けた穴向け疾走し外に出た。


「貴様! 逃げる気か!」


 フィアがフィルリークに追従し、同じく外へ出た。


「むぅ、壁の修理を頼まねば」


 ハーデスは少しばかり頭を抱えながら、フィルリークの後を追って外へ出たのだった。

 

「よっしゃ! ここでなら存分に暴れるだろ!」

 

 城の外に出たフィルリークが、剣先をフィアに向けながら叫ぶ。

 

「貴様ッ! 私を愚弄するつもりか!」


 フィアは、フィルリークの言葉に対し一瞬ハッとした表情を見せた。

 どうやら、自分に対して放った技を避けられたフィルリークは本当に逃げたと思っていた様だ。

 

「んなことはねぇよ! 強い奴との勝負は全力でやってこそ面白いだろうが!」

 

 フィルリークは『聖身到来』と叫び、身に付けている装備の性能を最大限に引き出した。


「どこまでも小癪な奴め! 貴様の愚かな態度後悔させてやるッ!」


 フィアは遥か上空へ舞い上がると魔法の詠唱を始めた。

 人間であるフィルリークが空を飛べるとは思わないのだろう、フィアが選択した魔法は随分と規模の大きいものだ。


「全く、若い者は元気で溢れておる」


 フィアとフィルリークを見て昔の自分を思い出したハーデスは、不敵な笑みをこぼすと城に対して結界魔術を施した。

 

「それがお前の技か! 上等だ、受けてやるぜ!」

 

 フィルリークは剣先を上空に居るフィアに突き付けると、闘士を溢れさせんと叫び声をあげた。

 

「ハーッハッハ、空を飛ぶことすらままならぬ下賤な人間め! 私の雷撃で一方的に破壊してあげるわ!」

 

 抵抗の出来ぬ弱者を一方的になぶる事に悦を感じていると言わんばかりの笑みを浮かべるフィア。


「俺を破壊出来るものならやってみろ! さぁ、きやがれ!」

 

 それに対し、相手の強大な威力を誇るであろう魔法を目の前に臆するどころかその威力が如何程なのか楽しみで仕方無いと言わんばかりの笑みを浮かべながら盾を構えるフィルリーク。


「その強がり、どこまで続けられるかしら? 漆黒雷破撃アークネス・ヴォルテックス、覚悟なさい?」

 

 フィアが天高く上げた右手の先には鈍く沈み込む様な黒色をした巨大な雷の球体が現われた。

 その大きさは、先程フィルリークに向けたモノよりも遥かに大きく、とても剣で切り裂く事が出来るとは思えない。

 フィアは、虫けらを踏み潰すかの様な笑みを浮かべながら巨大な雷球体を容赦無く、フィルリーク目掛け放った。

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転生したら勇者だった、ただし俺の目の前に居るのは魔王だ。 うさぎ蕎麦 @nijimamuru

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