98話 人の身に流れる涙、想いは承継す。
◇◇◇
「ネキア様、ご無事ですか!」
ランドウの焦りを含んだ声が瓦礫の重なる広場に響いていた。中心結晶体に背を預けていたネキアがランドウに顔を合わせた。彼女は片手を上げると、高位魔術を構成し、山のように積み重なった瓦礫を消し飛ばし、その中から配下たちの煤けた顔が見えた。ネキアも連樹子『
「都市魔法の使い過ぎで、中心結晶体もすっからかんだわ。それに、私も紫刹瞬破を使って、回復の為に数年の眠りを必要としてしまうわね」
弥覇竜からの攻撃によって、都市エーベは瓦礫し浮島の半分がなくなった。
「しかし、最悪の結果は免れた。都市が瓦解し浮島の一部が失われましたが、ネキア様がご無事でありますれば、再興は可能です。弥覇竜も黒魔術どもも既に消え去っております。まさに幸いであると言えるのではないでしょうか?」
ランドウの所見を聞きながら、ネキアは中心結晶体に繋がっている焼き切れた魔動器に目を向ける。そして、ランドウが背中に携えているニベの大剣を確認した。「これで終わりではないということね。まったくリヴィアタンとの貸し借りはもう二度としたくはないものだわ」と独りごちた。聖霊の愛子とリヴィアタン。そして―――、
次のその単語を思い浮かべる事さえ躊躇われる。
「どうかなさいましたか?」
近づいてきたランドウが、ネキアの不安げに逡巡している表情を伺う。
「これからのことを考えいたのよ。やはり、どう考えても私が数年の眠りで不在にすることは危険すぎるか」
そう言って言葉が途切れる。彼女は思う。彼女と同じ来訪者であった少年―――ノインの異能はネキアを遥かにしのぐ。通常であれば異能を持続して使うことなどできず、一度でも使ってしまえば反動によって滅失するはずなのだ。しかし、ノインにはその反動がなかった。ただ異能が強力すぎて体の一部が欠損する程度で済んでいる。
悪霊に最も近しい存在。
ふうと大きく息を吐いて、ランドウに告げた。
「分かったわ、こうしましょう。紫刹瞬破で受けた私のダメージは上位層にある浮島エーテルを使って回復に充てるわ。だから、都市の修復と並行して、エーテル獲得を始める必要がある。ランドウは部隊の編成を行い、それが完了次第に行動を開始しなさい。それから、ミケ。あなたは今回の防衛線で集めたデータを解析して、私の分体に報告しなさい。本隊である私は1ヶ月の間回復の眠りに入るわね」
すべてはこれからだ。これから世界が大きく動き出すことを、ネキアは確信しているのだった。
◇
現世界の大空に投げ出されたソラは叫ぶ!!
「うおおおお!! 現世界に来たっすけどおおおお、落ちてるっスうううう!!!オイラ飛べないんすよおおおお!! 死ぬっス、死んじゃうっスうううう」
と両手を懸命にバタつかせて空を飛ぼうと必至に頑張っている。リヴィアはココを胸に抱きしめて、ココの様子を伺う。ココはただただ泣いていた。そう、ペルンはもういないのだから。リヴィアは嗚咽を吐くココを両手で優しく抱き締める。喪失が呼び寄せる悲しみの奥底に沈んでしまわないように。
そのリヴィアたちよりもさらに下。そこにノインはいた。
ノインは大空の高みをじっと見つめている。
彼は観ていた。ペルンが放つ剣技のすべてを、その所作をつぶさに観ていた。鞘から刀を抜き、彼はその柄を強く握る。そして自分の片目から止めどなく涙が零れるのに気付いた。胸が震え、涙が熱い。
どうして、涙が溢れてしまうのだろう? それがノインには分からない。だけど、胸が痛くて声を出して叫びたかった。
ちょうどそのとき、リヴィアがノインを掴み上げ、ココと同じように自らの胸に抱き締める。「ノイン。人は悲しいときは泣くものぞ。我慢せずともよい、お主は人なのだから」
そして、そのまま眼下に広がる大陸に向かって、落ちていくのだった。
◇◇◇【第一部・完】
旧版・悪霊 Evil spirit ――歓喜の歌が響くとき―― ナ・ココ・なご @kirizatosatune
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