SEVEN ケンカしたら勝つのはどっち?

蓮見はすみっち、三春みはるちゃん、お昼いこ、お昼」

美咲みさきさぁ〜ん。がっつり系がいいですぅ」

「そっか。じゃあ、いつもの定食屋さんにしよっか。蓮見っちもそれでいい?」

「OKです」


 今日は午後から三人して一緒の現場に出てビル一棟丸々清掃だ。体力勝負なのでお昼も白米と味噌汁でエネルギーを補給しないと。


「おばちゃーん、『今日のおすすめ定食』三つねー」

「おばちゃんがおばちゃんにおばちゃんって言うな!」

「わー。ひでえ店ー!」


 定食屋のおかみさんと美咲さんが漫才みたいにやりとりする。

 なんか、社会人だな、って感じがするな。


「蓮見せんぱぁい。訊いてもいいですかぁ?」

「いいよぉ。なに?」

「彼女さんとケンカしたんですかぁ?」


 えっ。

 なんで分かる?


「おー。そうなのかい、蓮見っち」

「え、ええ。実はそうなんですけど・・・三春ちゃんなんで分かるの?」

「えー。だってぇ。せんぱいの口角がいつもより5mmほど下がってますもん」

「・・・・・・・」

「そんなことより蓮見っち。縁美えんみちゃんとケンカなんてするんだねー」

「ええ。たまーにですけど」

「ケンカの原因は?」

「・・・花の名前なんですよ」


 この間デートした砂浜に咲いていた花を摘んで帰ってきて小さな鉢に植えたんだ。図書館で借りた図鑑と照らし合わせて調べたけど似てる花があって。

 僕と縁美で意見が分かれたってわけなんだ。


「わぁ。くだらないですねぇ〜」

「まあまあ三春ちゃん。わたしも長いこと蓮見っちと付き合ってるけど夫婦喧嘩は初めて聞いたなー」

「夫婦って・・・」

「夫婦も同然じゃない。で?蓮見っちは何て名前の花だって言ったの?」

浜撫子はまなでしこです」

「へぇー。キュート。どんな花なの?」

「小さくて、花びらが四つ葉のクローバーみたいな形で、色は白でふちが淡いピンクで」

「で?縁美ちゃんは何て?」

浜大根はまだいこん

「だいこん、かぁ・・・」

「蓮見せんぱいに一票!」


 日が暮れて帰りの電車で縁美が乗り込んで来た。


「あ。おかえり、縁美」

「ただいま、蓮見くん」


 こうして疲れ果てて吊革にぶら下がり、一日の無事を称え合う僕ら。

 僕の方から謝った。


「今朝はごめん。なんか、ケンカみたいになっちゃって」

「ん?ああ。わたしの方こそごめんね。蓮見くんの『浜撫子』の方がロマンチックなのにこだわっちゃって」


 これでまあ仲直りかな・・・あれ?


「縁美。その鉢・・・」

「うん。スーパーに持ってってテナントで入ってる花屋さんの女の子に見てもらったんだ」

「どっちだった?」

「ふふ。『浜大根』!」


 相変わらず負けず嫌いだなあ・・・


 そうして僕らは一日のトピックを報告し合うことも欠かさない。


「定食屋のおかみさんが美咲さんにさ、『おばちゃんがおばちゃんにおばちゃんって言うな!』って怒ってた」

「ふ。『人民の人民による人民のための』みたいになってる」


 隣に立ってるサラリーマンが、ぶふっ、って吹き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る