FIVE デキる男とデキない男どちらを選ぶ?
「
「え」
同僚の
それが、デキたという。
赤ん坊が。
相手は高校の同級生らしい。どうせいつか結婚するつもりだったからと明るく言う三春ちゃんだけど僕にしたら結構衝撃だ。
だって、子供がデキたということはそういうことをしたということだ。三春ちゃんは当たり前だけど処女ではないってことだ。
僕は童貞だ。
駅からアパートまで歩きながら自分の呪いにでも遭ったようなカラダのことを考えた。
生まれてすぐに僕が男としての能力を持っていないことが医師の診断で分かったらしい。
それは子種がないっていうだけでなくって、そもそもそういうことができない状態なのだ。どういう仕組みでデキないのかはどうか訊かないで欲しい。少しだけグロい僕自身のカラダの部位の状態の話になってしまうから。
「俺の父さん、仕事がデキるんだぞ。会社の役員なんだ」
「すげー」
塾帰りだろうか。考え無しの小学生だから無視すればいいのに僕は心の中で毒づいた。
『なにが、デキる男だ・・・』
「ただいま」
「あ、おかえり、蓮見くん」
でも、今は、僕のためにかわいらしい笑顔を振り向けてくれる。
「ねえ、縁美」
「ん?なに?」
「したくない?」
「なにを?」
「そういうことを」
「・・・したいと言えばしたいかな」
「そうだよね」
「そうだよ」
5年も一緒に暮らしてるんだ。僕がデキないと分かってて、それでも縁美は僕が男として女のカラダに興味を抱くはずだと思って自らのカラダを僕に投げ出そうとしてくれたことも何度かあった。
布団にくるまって裸で抱き合って眠った夜もあった。
でもなにも起こらない。真夜中に目を覚ます度に相手の裸の肌をぎゅっ、と抱きしめるだけ。
そんなことを何回か繰り返した早朝、僕はどういう訳かとても悲しくなって、壁に背を押し当てて体育座りの膝に顔を埋めて泣いていた。
だからその内に縁美は抱き合うことも、無理にしようとはしないでくれるようになった。
「さ、ごはんごはん」
そう言いながら僕の弁当箱の包みを受け取って台所に歩いていく。
今日に限って僕はしつこかった。
「ごめんね。僕がデキない男で」
「変な蓮見くん。いいんだよ。大丈夫だよ?」
「でも、縁美は処女のままだよね」
一瞬だけ、彼女は真面目な顔になった。
それから、くすくす笑った。
「そうだよ。蓮見くんが童貞でいる限り、わたしは処女。全然OK!」
抱きしめたよ、調理中だったエプロン姿の縁美を。
そしてキスした。
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