彼女とバス停

ハイジ

ワンピースの彼女

 夏の日差しが照りつけるバス停に、彼女は立っていた。

生温い風にたなびく花柄のワンピース。足元には真っ白のコンバースが輝いていた。

今日のために買ったのだろうか、汚れひとつない。そんな小さなことでついつい頬が緩んでしまう。

 辺りを見回すも、田畑しかないこの田舎町で彼女はとても眩しく見えた。

思わずその後ろ姿に見とれてしまっていた僕だったが、気を取り直して彼女に近づく。

「真鈴」

声をかけると彼女は勢いよく振り返り、そして鈴のような透き通った声で言った。

「瑞希くん!もう遅いぞ」

「ごめんごめん。って真鈴が早すぎるんだよ。まだ集合の15分前だぞ」

「えへへー、だって瑞希くんいつも待ってる私を見てニヤニヤしてるでしょ?それを見るのが好きなんだぁ」

「んなっ?!」

見惚れていたのを気付かれたことに、驚きよりも羞恥心が勝った。一気に顔の温度が上昇して行く。

「あー、顔真っ赤。瑞希くんかわいい」

「あ、暑いからだよ!別にそういうんじゃねーし」

「えー、ほんとーー?ふふふ」

嬉しそうに顔を綻ばせながらからかってくる真鈴に、仕返しとばかりの言葉をぶつける。

「それに真鈴の方がそのー、か、可愛いぞ」

俺の精一杯の声に彼女はどんな表情をしているのだろうか。恥ずかしくて逸らしていた顔を元に戻すと、そこには真夏の太陽にも負けないくらいに顔を赤らめている彼女がいた。

「真鈴だって真っ赤じゃないか」

「そ、そんなことないもん。ただ暑いだけだし!」

俺と全く同じ言い訳をして照れている真鈴がなんだかとても愛おしくて、抱きしめたい衝動に強く駆られた。

「真鈴……」

「瑞希くん……」

真鈴も想いは一緒であったのだろう。自然と2人の距離は近づき、あと数センチというところで……。

"プシュー"という気の抜ける音とともに目の前でバスのドアが開いた。

よく見るとバスの運転手はにやにやしてこちらを見ている。

どうやら2人とも暑さでやられていたのは本当のようだ。バスの涼しい空調で頭を冷やそう。2人で微笑み合い、手を繋いでバスに乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女とバス停 ハイジ @6hige7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ