最終章 決意の日

最終話 そして未来へ……

―『麗』結成から2年後。―


 いつしか私は『麗』最強の暴走族潰し、『魔王サタンズ・鉄槌ハンマー』などという奇妙な異名で呼ばれるようになった。


 実際に私が最強なのか分からないし、姫野先輩の方が私よりも強い可能性もある。


 そもそも3人しか居ないチームで最強を誇っても威張れるものでは無いと思うが、『麗』の活動が活性化するにつれ敵も増え、味方も増えた。


 メンバーが増える事で下からの突き上げも激しくなってきたが、特に小碓武の存在は頼もしくもあり、同時に脅威でもあった。


 私がうっかりとタケル君の話を武にしてしまったのが良くなかったのか?


 武は麗衣ちゃんに殆ど喧嘩を売る様な形でスパーリングを申し込み、本気でやり合い、互角のスパーリングを見せたのだ。


 正直、武の強さには鳥肌が立った。


 女子アマチュアキックボクシング軽量級最強と言われている麗衣ちゃんに対して、僅か半年程度の経験で互角に渡り合ったのは驚くべき事だった。


 そして、麗衣ちゃんも武が私の真似をした必殺コンビネーションを完璧に封じて見せた。


 戦い方によっては私も麗衣ちゃんに勝てない可能性が高い。


 二人は急成長して、直ぐにでも女子ボクシングアンダージュニア優勝の私の実力をも越えようとしていたのだ。



 ◇



「話って言うのは他でもないんだけど、今までアンタと一緒に練習してきたけれど、あれを辞めようと思うの」


 武が麗衣ちゃんとの死闘と呼ぶべきスパーリングの終了後、私は武に宣言すると武は驚いたような表情で言った。


「ハアッ! どうしてだよ?」


「この前の試合と今日のスパーリングを見て、私からアンタに教える事は何も無くなったのが分かったからだよ。実際セコンドらしいアドバイス出来なかったしね」


 セコンドとは名ばかりでアドバイスらしい事は何も出来なかったが、敗北濃厚になっても武は諦めず、自力で圧倒的に不利な状況を打開したのだ。


「いや……確かに麗衣には追い付いたかも知れないけれど、お前には追い付いてないし、俺なんかまだまだだろ?」


「いいえ。アンタや麗衣ちゃんが思う程、私と麗衣ちゃんに差は無いんだよ」


 これはお世辞ではなく真実なのだが、それでも武は納得しない。


「で……でも、どうしてこんな急に?」


 私は最近心の中に温めていた計画を武に告げた。


「私ね……ボクシング界に復帰しようと思っているの」


「え?」


「私ね……アンタと同じで中学の時は苛められていたんだ」


 私の唐突の告白に武は驚いたような表情を浮かべていた。


「中1の時に全日本アンダージュニアで優勝したけど、それでマスコミとかに騒がれたりしてね……私の態度も問題があったのかも知れないけれど、妬んでいる奴等から酷い苛めを受けてね」


 自分も苛めを受けて居た武は悲痛な表情を浮かべていた。


「私もその頃は暴力に格闘技を使っちゃいけないと思っていてね……ずっと我慢していた。先生も友達かと思っていた同級生も誰も見て見ぬふりをするか、苛めに加担していていてね……、そんな私を見て麗衣ちゃんが私を助けてくれたんだ」


「昔から麗衣は真っすぐで優しい性格だったんだな……」


「そうだよ。麗衣ちゃんは昔から変わらない。優しい人だったんだ……。でも、それが原因で麗衣ちゃんが年上の男子に暴力を振るわれて……それで私はキレちゃってソイツ等全員を病院送りにしたんだ」


「そんな事があったんだ……」


 私が武の事を何と無く放っておけなかったのは多分、同じようないじめられっ子で、同じように麗衣ちゃんに助けられ、麗衣ちゃんが傷つく姿を見て、麗衣ちゃんを守りたいと思ったからだ。


 つまり、武は私で、私は武なんだ。


 だから他人事と思えないし、武を鍛えてやる気になったのかも知れない。


「その件で中学のボクシング部で私以外に先輩も絡んでいてボクシング部は廃部。別に罪悪感がある訳じゃないけど、格闘技を続けるのは躊躇していたんだ。でもね」


 私は武の顔を真っすぐ見ながら言った。


「麗衣ちゃんやお前、それに赤銅先輩が選手として活躍して、正直羨ましいと思ったんだ。それにこのまんまじゃ、すぐにアンタに追い抜かれそうだって事も分かったからね。だから、私も負けない。アンタに負けない」


 これは武と同じく麗衣ちゃんを愛するものとして武への宣戦布告だった。


「いや、俺なんかじゃ全然お前の競争相手にならないだろ?」


「あれだけ麗衣ちゃんと渡り合っておいて自己評価が低すぎよ。とにかく、私にはアンタなんかを鍛えてやっている暇は無いの。取り敢えず目標は高校選手権国体優勝。全日本選手権で3位だから」


 中学時代は無敵だったとはいえ、ブランクがあるから正直かなり厳しいと思うけれど、これは五輪代表になる為の最低限の目標設定だった。


「そうか……じゃあ、ジムのサブトレーナーは辞めるのか?」


「うん。時給はそこそこ良かったから勿体ないけどね」


 高校生のアルバイトとしては中々無い好条件だったけれど夢の為には何かを犠牲にする事は仕方が無い。


「まぁ、勝子が決めた事なら応援するよ。正直、お前がこのままストリートで埋もれていくのは惜しいと思っていたから」


 何だかんだと人の悪口を言いながら私を目にかけてくれていた、あのお節介な環先輩は喜んでくれるだろうか?


「ありがとう。だから、悪いけれど私から教えてあげられるのはここまで。アンタは自分の方法で自分の道を行きなさい」


「ああ。今までありがとう」


 武が手を差し伸べてきたので、私は武の手を強く叩いた。


「いってーな……何するんだよ!」


 物語だったら手を握り返して綺麗に終わる流れだろうけれど、コイツは私にとって最大のライバルなんだから、軽々しく慣れ合いたくない。それに―


「いや、初めてアンタに格闘技を教えた時、こんな事したかなって懐かしく思ってね」


 あの時も手を引っぱたいた事を思い出した。

 あれから武は私の想像を超えてドンドン強くなっていったのだ。


「それからたった半年位で信じられないぐらい強くなった……でも、私から卒業出来たってだけでアンタはまだまだだから、私が一緒に居ないからって練習サボったら駄目よ」


「ああ。分かっているさ」


 止まっていた時計の針が再び動き出す。


 今度は兄を馬鹿にした連中を見返す為なんかじゃない。


 私の為に、麗衣ちゃんの為にもっと強くなりたいからボクシングを再開するんだ。


 そして、いつしか麗衣ちゃんの希望を叶えることが出来たら、堂々と陽の当たる道を行くんだ。



◇◇


 本話は『ヤンキー女子高生の下僕はキックボクサーを目指しています!』の最終話が勝子視点になっています。宜しければ見比べて下さい。


 『魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡』はここで一旦完結します。


 重い話でしたが、ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました!


 正直不人気な作品でしたが(苦笑)面白くないと感じた方は忌憚なくご感想を下さい。今後の改善点として参考にさせて頂きたいと思います。


 なお、『ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる?』の2年生編も後日執筆予定の為、暫くお待ちください。


*追記

上記2年生編は以下になります。


『イリュージョンライト~伝説覚醒~ヤンキー女子高生の下僕は〇〇になりました』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219169549510


宜しければこちらもお付き合いください!

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魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡 麗玲 @uruha_rei

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