世界の謎を読み解く架空歴史小説としての楽しみ

 シエルクーン魔道王国の少年アラタ・アル・シエルナは冒険者になりたいのだが、神からの恩寵を受ける事が叶わず、仕方なくギルドの受付をしている。一見、うだつの上がらない少年にみえるこのアラタは、他人と比肩できない程の大望を抱いていた。王になるという大望である。

 旅の冒険者であるナユタ・エルリカ・アルはダルシア法王国の国境の町で法王国の王女であるサクラと知り合い、ダルシア法王国に忠誠を誓うこととなる。

 物語はこの二人のアル家の少年たちやアル家を縦糸として、そして恐らく千年以上前からの神々と異なる世界の因縁、魔導書の精と現世に生きる人々を横糸として織りなしていく。

 第二部第三章までは読者はアラタやナユタの視点で時に微笑ましく、時に応援しながらこの世界を知っていくことができるだろう。時折、文章に現れる世界の謎にドキリとしながら読み進めて欲しい。二つの王国と神々の思惑は少年たちの活躍の裏で静かに進んでいるのだ。

 そして第二部第四章以降は、その点在していた伏線が自己主張するかのように、二つの王国の対立となって顕在化していく。序盤の物語の導入は緩やかに、軽やかに、そしてこの章から政治や歴史的な要素を持った重厚なファンタジーへと変化していく。文末で後世の視点で人物の紹介があるように、これは架空歴史小説の側面が強い小説である。単純な魔法の打ち合いや剣戟に頼らない、世界の謎を解き明かしていく物語として大いに引き込まれていくと思う。

 過去において、この世界の王になるべきだった人間とは、そして現世において王を目指すアラタの結末とは、過去と現在とのアルとアル家とのつながりとは、一読者として今後の展開を楽しみにして続きを待ちたい。

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