死んでもやってやる!!

数十分後、波乱たち一行はブレイアルが宿泊しているホテルの一室にやってきた。


「なるほど、話はだいたいわかった。君のお姉さんが誘拐されたことと、奴らがその犯人だということがな!!」


ホテルの一室は一人で泊まるには広すぎるくらいある。なにせこのホテルの最高級の部屋なのだから。


波乱はソファーにどっかりと体重を預けて座っており、その姿からは数十分前まで心臓に穴が開いていたとは想像もつかない。彼の心臓の傷はなんの治療もしてないのにここにくるまでにいつのまにか完全に塞がれていた。


「んで、君は……えっと、名前なんだっけ?」


波乱が気絶から目覚めた少女に話しかける。彼女は波乱とは別の一人がけのソファーにチョコンと座っている。


「ルクク・ランクルです」


「そうだ、ルクク・ランクルだ。君が寝ているときに奴らが襲いかかってきて、お姉さんが誘拐され、君は逃げることができた。そういう認識でいいんだね?」


「はい、寝ているところを家にいきなり入ってきて……お姉ちゃんが囮になって私を逃してくれたんです…………多分、あの人たちは最近この街で多発している人攫いの原因だと思います」


「ああ、それなんか酒場で聞いたなぁ。俺も今の今まで思い出せてなかったぜ」


ブレイアルは靴を脱いでベッドの上であぐらをかいて座っている。酒は完全に抜け切っており、表情はいくつもの戦場を戦ってきた傭兵のそれだ。


「だとすれば、彼女を家に返すのは危険だな。ブレイアル、今日であったばかりの君に頼むのは忍びないが、彼女をしばらくこの部屋に泊めてくれないか?」


ロイエンは部屋にあったコーヒー豆でコーヒーを煎れて飲んでいる。優雅なその姿は完全にサマになっている。


「勿論、構わない。それに俺も今回の事件がちょった気になるからな」


「あ、あの……皆さんはどうしてそんなに優しくしてくれるんですか?ただ出会っただけなのに、普通の人なら何事もなかったかのようにしますよ」


普通の人ならば厄介な出来事には巻き込まれたくない。それなのにこの三人は自分たちの意思で厄介な出来事に巻き込まれようとしている狂人なのだ。


「俺ちゃんは厄介ごとに巻き込まれる星の下に生まれちゃったからね、どうせ逃げてもまた出会う。だから、終わらせる」


「俺は単に面白そうなのと、あの人攫いの中に知り合いがいるからな。そいつをボコボコにして連れて帰らないといけない」


「僕は単なる暇つぶし、話の種になりそうだから参加しているだけだよ。だからそんなに気負わなくていいよ」


三者三様、各々の個性が出ている返答だった。


単に酒場で相席になっただけの関係、それなのにいつの間にやら重要な事件を解決しようと協力している。


「だから、心配するな。俺ちゃんはこいつらのことをよく知らねえけど、安心しろ。頼りになると思うから。君のお姉さんは助け出すから、安心してくれ」


自信満々に右手で左胸の心臓のある位置を力強く叩いて波乱はルククに向けて宣言した。


「お前のその死んでもって発言はガチだから怖えんだよ。てかなんで普通にしてんだよ。さっきまで死んでたんだぞ」


「それよりも、これからどうするかを話し合おう。誘拐したのはあのゲーニッヒとかいう男が所属している犯罪者ギルドだが、依頼したのは恐らくあのモノクルの男の組織だろう」


「俺ちゃんその辺死んでたから知らねえんだよなぁ」


「君には後で説明するよ。今回の事件は早期解決が望ましい。だから日が明けたら情報を集め、夜になったらまた人攫いが出ないかの見回りを行う」


「んじゃあ夜の見回りは俺とハランの二人がやる。ロイエンはここで彼女を守っててくれ」


すんなりとこれからの予定が決まった。


「予定が決まれば後は、寝る!!ルクク、俺はソファーで寝るからベッドで寝ろ。疲れてるだろ」


ブレイアルはルククに気を使ってベッドで眠ることを勧めた。今回の件で一番疲れているのは間違い無く彼女であり、精神状態も不安定なのだ、だから少しでも休めるようにと彼なりに配慮したのだ。


「え、でもそんなの悪いですよ」


「うるせえ!気にしてんじゃねえよ!俺が寝ろと言ってるんだから素直に寝る!おやすみなさい!!」


ルククに向けて大声を上げていた2秒後にはブレイアルは眠っていた。喋っている途中で既に寝ていたのかもしれない。


おやすみなさいと言った直後にソファーにうつ伏せで倒れ込み、スヤスヤと寝息を立て始めた。


「………どんな肉体してんだよ、こいつ」


「それ君に一番言われたくない言葉だと思うよ…………まあルクク君、素直に寝たほうが良いよ。明日からは少し辛かなると思うから」


ロイエンも眠る準備を始めた。


「………わかりました。ではお言葉に甘えさせてもらいます」


ルククもソファーから立ち上がると一直線にベッドに向かい、ベッドの中に入ると目を閉じて眠り始める。


「にしても変な縁だな。単に酒場で相席になっただけだというのにな」


「そういう縁もあるということだ。それよりも、明日は任せたよ。ハラン」


「任せろ、死ぬ気でやってやる」


「だからそれは怖い!!」

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波瀾万丈波乱 ぼんたん @bontan77

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