見方を変えればいいってわけじゃないの
タケノコ
先回りして
普通の教室よりちょっと広いぐらいの美術室、先輩たちの過去の作品が雑多に置かれている中、今日のお題を挟んで向かい合うようにして僕と彼女は向かい合っている。
僕は中学二年生、美術部。僕の目の前には、やっと立体的に見えてきた絵の描かれたキャンバスが、そして机に置かれたお題、彼女が奥に続く。あとは色を付ければ立派な作品になる。絵を描き始めてから一年しかったっていないけれど最初に比べればだいぶ上達したと思う。
「ねえ、君のはどんな感じ?順調?」
「うーん、まあ、いい感じかな。」
「みてみてもいい?」
「もうちょっと待って」
彼女の絵は独特だ。上から、下から、お題を丁寧に見ては、みている角度とは全く違う角度から絵を描きだす。デッサンを書くような体制なのにデッサンを書かないのだ。
「いいよ。」
絵を見てみると確かに今日のお題がそこには描かれていた。
「また、変わった絵を描くね。ふつうは横から書くのが一般的だと思うんだけど。」
「そう?どこが正面かなんて人それぞれが違うんだからこの角度から書いたっていいでしょ。ほら、ここの曲線がきれいだって、この角度じゃないと気付かないでしょう。自分にしかわからないきれいなものを見つけるのが楽しいんだよ。」
「でもこれじゃ水がないから、これが何なのかがお題を見ていない人にはわからないんじゃないかな。」
「うーん、困ったな。ここのタンクの部分が見える角度がいいと思ったんだけど。」
「タンクの部分に水を書けばいいじゃん。君の場合は中の水を書くのが難しかったから面倒くさがっただけでしょ。」
「…ばれたか、でも先生には秘密、上達しないって怒られちゃうから。それに水がないほうがいいかもしれないし。」
「ねえねえ、君のも見せてよ。」と君が顔を覗き込む。
「いいよ。」と彼女の手を引いた。
びしょびしょになって笑っている彼女、
「やったな。」と言って彼女は机にあったお題の水鉄砲を僕に向けて発射した。
「二人の絵で一つの作品ってことでいいよね?いいでしょ?」と言って絵の中と同じ笑顔を僕に向けた。
見方を変えればいいってわけじゃないの タケノコ @nanntyatte
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