第6話 葵に想いを伝えろ!
頼む。葵まだいてくれ!
僕は全力で走って向かった。
息を切らしながら、大きな桜の木の下に行くと一人の綺麗な女子生徒がいた。
「あっ。やっと来た。女の子を30分も待たせるなんてダメだよ?」
僕が走って来た事に気付いた葵は怒るわけでもなく、笑顔でそう言った。
こんなに優しい女の子だからこそ失いたくない。
と僕の心が叫ぶ。
やっぱり直接会うとさっき決心したはずの心が簡単に揺れる。
やっぱり君には敵わないや。
「……ごめん。でもどうしても伝えたい事があるんだ。それでやっと心の整理がついたから会いに来た!」
僕は珍しく声を上げた。
葵は僕の目の前に来て、僕の目から零れ落ちる涙を優しく細い指で拭いてくれる。
「うん。先に聞いてあげる」
「今までありがとう。僕の隣にもう葵はいないのはわかってる。……だけど、正直に言うなら……僕は……まだ葵の事が好きだ!」
「……うん」
「だからこそ僕はもう葵には関わる事を止めようと思う。だから、だから、だから……」
たった一言。
だけど、最後の一言が中々出てこない。
変わりに出てきたのは沢山の涙だった。
葵はそんな僕の言葉を何も言わず待ってくれた。
――そして。
「……僕とは違う人と結ばれて必ず幸せなって下さい。今まで本当にありがとうございました! ……こんな僕を成長させてくれて本当にありがとうございました!」
それから。
僕は一度大きく深呼吸をする。
「僕は葵との時間を大切にするあまり本の道から離れてしまった。確かに葵と一緒にいた時間は最高に幸せだった。だけど本当の僕はそこにはいなかった。僕が本当の意味で生き甲斐を感じられる時間は本と向き合っている時間だけだったんだ。だからこれからは新しい彼氏さんと幸せになってください!」
ようやく言えた。
お別れの言葉。
まさか葵まで泣くとは思わなかった。
そうだ。
これで良かったんだ。
「そっかぁ。なら私からも一つだけいい?」
「うん」
「××君! もう一度私と付き合って下さい!」
えっ? それはどういう意味なんだ……。
僕の頭がパンクする。
「私は今も昔も本を書いてる君が大好きなの! それで今度は本と私の両方をしっかりと大切にして。本と向き合ってない君は君であって君じゃない。全くの別人だった。だからあの日別れる事にしたの。今度は……わっ……私を君の作品のヒロインにしてください。そしたらいつまでも現実の世界でも本の世界でも一緒にいられるから!」
僕は戸惑いを隠せずにはいられなかった。
だって朝、一緒にいたのは彼氏……。
「えっ? でも朝……葵は彼氏と登校してた……よね?」
「あ~あれは仲の良い男友達だよ。私が好きなのは……」
もしかして僕は勘違いをしていたのかもしれない。
僕の唇が葵の柔らかい唇で塞がれた。
心臓の鼓動が高まる。
――ドクン、ドクン、ドクン!!!
視界には顔を真っ赤にした葵の顔だけが見えた。
周りの音は消え、僕の心に積もった雪が春の太陽の陽を受けて一気に溶けた。
それだけじゃない。
雪が溶けた事で、新しい芽が顔をだしつぼみを作り綺麗な花を咲かせる。
「ぷはぁ~。これでも私の気持ち伝わらないかな?」
恥ずかしそうに頬を赤く染めた葵はとても可愛いかった。
僕は自分でも分かる程に顔を真っ赤にしてこう答える。
「……大好きだ葵。今度は君と本の両方を大切にするよ」
これが僕の新しい道。
そうだ。僕は僕の道だけじゃない。
本当の僕は葵と一緒に本の道を歩みことを望んでいるんだ。
僕の心の中にもようやく綺麗な桜の木が花を咲かせた。
冬が終わった。
とても辛く長い冬が……やっと終わったんだ。
「私も大好きだよ。本と向き合って生き生きとしてる××君の事がね!」
二人は春の桜の木の下で手を繋いで歩き始めた。
終わり
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【後書き】
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
どうでしたか?
失恋から始まる恋物語は?
あまりメジャーではない展開だけに新鮮だったと思います。
もし何かしら思って頂けましたら、応援コメント、レビュー等で教えて頂けるととても嬉しいです。
【ちょっとだけネタバレ的な奴】
タイトルの意味通りの展開です。
失恋して一人になった主人公が葵と復縁。
ただし復縁する前の葵と復縁した後の葵は違う。
復縁前は一人の彼女として、復縁後は一人の彼女、そして主人公のヒロインとして
【告知】
皆様の応援やレビュー、作品フォローの声援のおかげで今回本作品が連載3日目からランキング入りを果たしなんと注目の作品にも乗る事が出来ました。読者の皆様ありがとうございます。
明日から本作品の変わりに新作を同じ時間に更新していく予定ですので是非よろしくお願いします。同じく短編です。
近いうちに葵サイドのストーリー作ります。
【最後に】
連載中の
・とりあえずカッコいいのとモテそうなので弓使いでスタートしたいと思います
・古き英雄の新たな物語
共々今後とも末永くよろしくお願いいたします。 みつかげ
もう僕の隣には君がいない、だけど今は違う君がいる 光影 @Mitukage
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