もう僕の隣には君がいない、だけど今は違う君がいる
光影
第1話 僕はまだ君が好きだ!
『私立白雪学園』そこは一人の少年が通っている高校。
その高校にある大きな桜の木の下で少年は一人桜を見ていた。
「あぁ……君はもう隣に居ないのか……」
一人の少年が呟いた。
目から零れる涙。
――失ってからじゃないと気づかない物もこの世にある
そう実感した日。
去年のクリスマスの夜に一人の少女――葵が言った言葉。
「ごめん……わっ……わたし……」
とても気まずそうな顔をして、戸惑いを隠せきれていなかった。
「今まで嘘ついててゴメン。実は他に好きな人がいるの……だからさようなら……」
葵は涙目になりながらも必死に我慢して、僕の横を駆け抜けて夜の街へと消えた。
その日僕の心は死んだ。
何もかもが壊れていく、そんな感じだった。
後ろを振り返り、葵が消えた街に目を向ければ、雪が降り積もった夜の街は僕の心とは裏腹にとても楽しそうな雰囲気で一杯だった。周りには沢山のカップルが居て赤い帽子に白いひげが印象的なサンタさんもいた。
――僕の瞳から零れ落ちる涙は悲しみを溶かし
――この雪と同じようにいつか溶けてなくなるのだろうか?
そんな事を考えている時点で。
――僕は生きる全てを失ったのかもしれない
――――――
――――――――――――
冬が終わり春が来た。
だけど、僕の心はまだ悲しみが心の中で積もっていた。
それでも世界は優しくない。
どんなに辛くても僕はある場所に足を運ばなければならないからだ。
周りに耳を傾ければ聞こえてくる楽しそうな会話。
本日4月6日始業式の日。
僕は去年彼女に振られた。
理由は「他に好きな人が出来たから」ということらしい。
春の桜が咲き誇り、太陽の陽が暖かく感じる。
だけど、どうやら僕の心の中にまでは太陽の陽は届かないらしい。
いっその事、暖かい陽の光で僕の心の中も照らしてくれればいいのに……。
「あれは……葵?」
学校の校門前にある信号が変わるのを待っていると別方向から一人の男の子と楽しそうにお話ししながら登校してくる葵が視界に入って来た。
僕の心臓がズキッと痛みを覚える。
つい胸の奥を締め付けられ、苦しくて泣きそうになった。
だけど我慢して平常心を装って、顔には出さないようにした。
(そうだ……葵が幸せなら僕は身を引くべきだ……)
僕は思わず大きくため息を吐いた。
そして青信号になったのを確認して校門へと歩き始めた。
忘れていた懐かしい声が聞こえる。
距離は離れているはずなのに……。
とても不思議な感覚に身体が襲われた。
あぁ……僕の心の中ではまだ春が来てないんだ。
僕の心を照らせるのは葵だけだから。
もう一度君の声を近くで聞きたい。
もう一度君の手を握りたい。
僕の心は揺れ動く一方だった。
そのまま新しいクラスに行くと、苦笑いしかできなかった。
それは向こうも同じだろう。
黒板に白いチョークで書かれた座席表に向ければ当然である。
僕の席の隣は葵だった。
――神様はホント僕に試練しか与えない
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