第2話 好きだから嘘をつく


 僕はもう一度ため息を吐いてからクラスの中へ入った。


 周りの視線が痛い。


 僕と葵が別れた事は学年で去年噂になったから皆知ってる。

 気が重いと感じながらも席につき、窓から見える校庭に目を向ける。

 特に意味はなかった。

 ただクラスの皆や葵と視線を合わせたくなかっただけ。


「ねぇ、挨拶ぐらいしてくれてもいいんじゃないの?」

 僕は窓に反射して見える葵の顔をチラッと見て無視する事にした。


 今はあまり話したくない。

 そんな気持ちで一杯だった。


 心の中ではかなり気持ちが整理出来ていたつもりだった。

 だけど春休みが終わり、いざ学校で葵を見ると僕の心は戸惑うばかりだった。


「去年はゴメンね? まだ怒ってる?」

 葵に無視されていると言う感覚はないのだろうか。

 それともただ単に僕を困らせたいのだろうか。


 どうせすぐに飽きるだろう。

 そう思い僕は気付いていない振りをした。


 だけど葵は僕が反応をするのを待っているらしく、ジッとこちらを見つめてくる。


 大きなため息をついて。

 仕方なく視線を葵の方に向けると、やはり僕が振り向くのを待っていた。


 その笑顔が嬉しくも辛く感じる僕。

 やはり未練が原因なのかもしれない。


「あっ、やっと反応してくれた!」

 笑顔でそう言う葵。

 それは僕にとって嬉しくも苦しい笑顔だと早く気づいて欲しい。


「それで、僕に何の用?」


「えっと……今日の放課後暇?」

 少し頬を赤くして、恥ずかしそうに呟く葵。

 クラスの視線がその言葉に反応したように僕達に向けられる。


 その時、僕はさとった。

 きっと葵は僕に今日の朝一緒にいた彼氏を紹介したいのだろう。

 僕はインドア派で友達が少ない。

 当時僕が葵と付き合っていた時もそのことを気にして何度か女友達を紹介された。

 これは葵の優しさだ。

 僕が一人にならないようにと言う優しさからだ。

 だけど、それが今は死ぬほど辛い。


 だから嘘をつく事にした。

「ごめん。今日は……今日は……」


 しまった。

 唐突な事に言葉が上手く出てこない。


 考えろ。考えるんだ。嘘を!


 そうだ! 昨日読んだ本で主人公が使ってた言葉。

「え……あー……ごめん。彼女とデートの約束が……あるんだ」


 …………。


 ――――…………。


 え? 葵だけじゃない。


 クラス中がシーンと静まり返った。


 【嘘だろ……お前に彼女が!?】と言いたげな視線の数々。

 

 いや嘘だけど……なにその反応……。

 これじゃ、僕が悪いみたいじゃないか。


 いや嘘をついた時点で悪いんだけど……。


「えっ……嘘だよね……!?」

 クラスの沈黙を破ったのは葵だった。

 だけどその表情は多分だけど見た感じ驚いているのではなく戸惑っている感じがした。


「…………」

(嘘と言ったら放課後嫌な予感がするし……困ったな……さてどうするかな?)

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