・阿久里
挙句の果てに仇討を為しても結局切腹。
切腹にならず伊豆へ流された者達の赦免活動にばかり時間を注ぎ込んで、人生を棒に振る羽目になったわ。尤も、夫が狂った時点で人生を棒に振ったも同然、二度棒に振った、と言うべきなのかしら。
そう考えれば、恵まれた人生だったのかもしれないわね。贅沢なのかも。二度も棒に触れる人生なんて滅多にない。大半、一度棒に振ったら人生はおしまいなのだから。
勝手な男どもへの恨みは、山ほどあるわ。
持ち上げてくれる世の者たちも、勝手に話を盛っちゃうし。
だけど、それに取りつかれて怨霊になってしまったら、討ち入りした者を尊び、討ち入りしなかった者達を罵る、浅ましい者達と同じになってしまう。それは嫌だわ。
勿論、贅沢なのかもと言っておめおめと引っ込んでいては、世は改まらない。それも尤もね。
尤もだし、持ち上げられるのも複雑な気分だけど。
せめて美しい物語として死ぬほうが、まだましじゃないかしら? 世の改めは、美しい物語として為せばいい。怨恨で世を改めては、際限の無い反撃と反撃で、再評価と批判、再評価と批判で、世は乱れ改まらない。だから美しい物語がいい。それで為せなければ人はそれまでじゃないかしら。
私はそう思い。そう死ぬ。それだけは、好きにさせてもらうわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます