第6話 嘆き side 延珠
「竜帝様、申し訳ございません」
ある夜、
「何を謝ることがある」
竜帝がその涙をそっと
「竜帝様の
「そのうちできる。焦らなくていいのだ」
「ですが……っ」
延珠が子のことを竜帝の前で口にするのは初めてだった。涙を見せるのは、竜帝が役に立たなかった最初の数日間以来だ。
「わたしは共にいられるだけで幸せなのだ。子など後でよい。例えできなくてもいいとさえ思っている」
「それでは竜帝様のご世継ぎが……!」
延珠はわっと顔を覆って本格的に泣き出した。
「いいのだ。竜でありこの国に関わりのないはずのわたしが皇帝の座に
「本当ですか……?」
延珠は震える声で聞いた。
「本当だとも。皇帝でいたのは、かつての約定のためだ。片割れを得た今、この国を守る必要もない」
竜帝は延珠をそっと抱き寄せた。まっすぐな髪を手でゆっくりとなでる。
「竜帝様……お慕い申し上げております」
延珠は竜帝の胸にすがりついた。延珠の髪から、ふわりと甘い香りが立ち上った。
「わたしもだ」
今度は力を込めてぎゅっと抱きしめる。
「わたくし、竜帝様に御子の顔を見せて差し上げとうございます」
「ああ、きっとよく似た可愛い子が産まれるであろう」
竜帝が延珠のあごに手を添えた。
「もっと顔を良く見せておくれ」
「泣き顔をお目にかけるのはお恥ずかしいですわ……」
くっと延珠の顔を上げさせるも、延珠はすぐに顔を伏せてしまった。竜帝にはその仕草さえ
「口づけをさせてはくれぬのか?」
耳元に口を寄せてささやくと、延珠は恥ずかしそうにふるふると震えたあと、目を閉じてゆっくりと顔を上げた。
その赤く色づいた唇に竜帝の口づけが落ちる。
ほどなくして、寝台の上で、二つの影が重なった。
「ねえ、
竜帝と
延珠の髪を結っていた夜起は、一瞬手を止めた。
夜起は延珠が連れて来た付き人の一人で、幼い頃から延珠の世話をしていた。他にも連れてきた者はいるが、今は下がらせている。
たわんでしまった毛束を手離して
「……そのうちおできになりますよ」
夜起は薄く微笑みながら言った。
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