第5話 亡者
雷鳴が聞こえる。
大地をたたく雨音が耳を打つ。
ぼんやりと意識がもどってきた。
玲香は目を開けた。
細長い蛍光灯が2本並ぶ薄汚れた天井が見えた。
「っ…………!?」
手足を動かそうとして玲香は気がついた。
病院のベッドのような寝台に手足を鎖で繋がれていることに!
しかも全裸だ。身に一糸もまとっていない。
「気がつかれましたか?」
部屋の隅から声がした。目を向けると――
「あんたは――!!」
その男は消えたホームレスの一団のなかにいた、髪の長い青白い顔の無口な男であった。
「素晴らしい眺めだよ、おねえさん。いい体してるじゃないか。
アソコの色も形もキレイだ」
大股開きとなった玲香の股間を覗き込みながら男がいう。
「あんたは何者なの?!」
「おや、おねえさんはボクを知らないの?」
「新入りのホームレスという以外はね」
「じゃあ、教えてあげるよ」
そういうと男は頭髪に手をやると、一気にむしりとった。
「っ!!」
亀頭を思わせる、つるりとした見事な禿頭であった。その男はカツラを被っていたのだ。
こめかみにミミズが這ったような青筋が浮かんでいる。この青筋はまさか……?!
「そう、そのまさかだよ」
男の顔面の筋肉がぐにゃぐにゃと動き、見覚えのある男の顔に形を変えてゆく。その男の名は――
「ぼくだよ。ぼくが朽木弁太郎なんだ」
それはまさしく沼に沈んだ男の顔そのものであった。
つづくっ!
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