第3話 臨場
まだ歩けないという美由紀をその場に残して、玲香は単身タクシーに乗り込み現場に向かった。
烏ヶ森公園の公衆トイレには規制線が張られ、機捜や所轄、鑑識課員たちが忙しく動き回っている。
玲香はタクシーを降りると、顔馴染みの所轄の刑事を見つけて駆け寄った。
「セクハラさん、ガイシャはまだなかに?」
「おれの名は
その刑事は口をへの字に曲げると玲香をにらんだ。
以前、合同捜査で組んだことのある中年刑事だ。
張り込みの最中に尻の辺りに手を伸ばしてきたので、得意のボディブローを叩き込んだことがある。
「まだ、なかにいるよ。鑑識が写真を撮ってる」
「どうも、関ヶ原さん」
「関原だって!」
訂正の声を背中に流して玲香は公衆トイレのなかに入った。
女子トイレのブースだ。便器に腰掛けた状態でその若い女性は殺されていた。
年齢は20前後といったところか。スカートもパンティも膝下まで下ろされた下半身まるだしの格好だ。もしかしたらこの近くの女子大生かもしれない。
「ちょっと失礼」
仕事の邪魔だといわんばかりの鑑識課員を押しのけてガイシャに近づく。
首に指の形の圧迫痕がある。直接手で絞め殺されたのだ。
だが、朽木は玲香がこの手で葬った。確かにやつは人喰い沼の底に沈んだはず。
まさか、沼の底から甦った?!
ありえない。だとしたらやつはゾンビだ。
玲香は犯行現場をでると、規制線の向こうで不安げにこちらをみている管理人を見つけた。
テープをくぐって管理人に声をかける。
「どうしました?」
「刑事さん、ちょっと気になることがあるんだが……」
「気になること?」
「三日前から玄さんたちの姿が見えないんだ」
「玄さん?」
「ほら、以前あんたが聞き込みに当たっていたこの公園のホームレスだよ」
「ああ、あのひとたち!」
思い出した。朽木弁太郎の犯行を裏付ける貴重な証言をくれたひとたちだ。
そういえば、なかに一言も喋らなかった新入りのホームレスもいた。長髪で青白い顔の若者だ。全員、消えてしまったのだろうか?
「この事件と直接関係ないかもしれないけど、なんか気になるんだ。ちょっと、調べてみてくれないかな?」
「わかりました。なにかわかったらお知らせします」
「ありがとう。あんな見てくれだが、みんなワケアリのいいやつなんだ。頼むよ」
玲香にしては珍しいことだが、彼女は管理人に向かってかすかな笑みを浮かべると人喰い沼に向かった。
急勾配の坂を登る。
そこになにかがあるような気がしてならない。
つづくっ!
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