トンネルきらきら

濡れたアスファルトの匂いが好きだ。

私が子どもだった頃の記憶がよみがえるから。懐かしい。胸が苦しくなるほどに。


コンビニで購入した安物の透明傘。

今朝の天気予報では終日快晴のはずだった。

およそ垂直に降りそそいだ陽ざしが、アスファルトもコンクリートも鉄も、何もかもを焼いた正午。一転、時計の針が直角を描いた頃、社内の窓から見える世界がグレーに染まった。


雨の匂いは好きだ。

私が子どもだった頃の記憶がよみがえるから。私はこの匂いの正体を「濡れたアスファルト」だと思っている。

ぽつぽつと弱まりつつある雨。

濡れることも泥がはねることもお構いなしに走る男の子が、傘をさしながら歩く私を顧みる。

いつも見かける団地の傍を歩きながら、小さな傘で体を守る私はさぞ滑稽に映るはず。




男の子が走る先に目を向けると、白華はっかにまみれた集合住宅の群れが、肩を組むように小さな公園を取り囲んでいる。

左手で線を描くように雨が降る午後。小刻みに粒立てる雨音のなか、口を開けたトンネル遊具の中に肩を寄せ合い座っている二人の女の子がいた。

なにやら楽しそうに笑っている。


たったそれだけのことが印象的だった。




弱まっていた雨が完全に止み、陽ざしのナイフに切られた雲はどこかへ逃げていった。


私も傘をとじ、小さな公園をあとにする。

いつの間にか男の子の姿も見あたらない。




雨の匂いは好きだ。

私はこの匂いの正体を「濡れたアスファルト」だと思っていた。


でもどうやら違うらしい。そんな気がした、答えを見つけた帰り道。


いつかあの子たちも、そんな些細な「好き」が鼻先をくすぐる瞬間をむかえるはず。


一度だけふりかえる。

二人のトンネルは陽ざしを浴びてきらきらと光る水たまりに囲まれていた。

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