ミックスジュース
机の上に並ぶビンは、どれもピカピカしていて、いろんな色があってとてもキレイ。赤、青、緑、白……まるで絵本に出てくる森の中みたい。
西の窓に映る空が赤く染まると、ママはいつも一人でジュースを飲んでいる。
わたしもコップを持って向かいに座る。お気にいりのガラスのコップ。ざらざらしていて、ガラスのなかに泡が浮いているような模様。
――――ママはいつも独りで飲んでいる。わたしのコップはいつも空っぽ。
満たされないコップにミックスジュースの歌を詰めていく。それはもうぎゅうぎゅうに。リンゴが踊って、バナナが走り、そしてメロンは手拍子を。にんじんは……嫌いだから仲間にいれない。
わたしのコップは満たされた。
ママは泣いていた。わたしの歌が嬉しかったみたい。嗚呼、良かった。
白んだガラスの向こう側、ママの目は、ママの頬と同じくらい赤く染まっていた。わたしはそれを見てトマトを入れ忘れたことを思い出した。でもトマトも嫌いだから入れてあげない。これでいい。
もう一度、歌をうたってみた。ママが喜んでくれるから。
わたしのコップにも、あかいろ・きいろ・みどりいろ。
スプーンで混ぜれば、みんな一つになれる気がする。
ママは、おもむろに、手を差し伸べて……。とっさに頭を撫でてもらえると思ったわたしは、口を閉じ頭で迎えにいった。なのにママは、混濁色の歌で満たされたガラスのコップを、手に取った。
そして……大きく腕を振って、遊んでいたリンゴたちは遠心力にのり空を飛ぶ、コップは威勢の良い音を立て散る……わたしの足もとで――――。
不ぞろいなガラスの破片、床に染みて薄汚れたかつてジュースだった跡。
みずみずしいオレンジを連想させる陽が、西の窓からママの背中を焼いていた。
やがて扉は閉まり、そこに映るは小さな影ひとつ。
わたしは独り、ミックスジュースの歌をくちずさんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます