コロナウイルス殺人事件

本庄 照

事件編:警察も社会的距離は二メートル

 殺人の動機は明白だ。給付金の十万円である。


 コロナウイルスの流行により生じた社会の混乱を抑えるべく、国民全員に一人あたり十万円が給付された。

「その十万円をめぐって殺人が起こるとは……」

 流行りの布マスクをした志賀しが刑事は、首が吊られた死体を見上げている。


 自分も、給付が決まった時には喜んだ。齢三十にして子供のように大喜びし、実際に給付された時もまた喜んだ。


 まさか、その直後からこんな殺人事件が起こるとは思いもしなかった。


「死亡推定時刻は四日前。一見すると自殺に見えますが、自殺者はこのようなカードを置きません」

 鑑識が、二メートル離れたところから志賀刑事に報告する。


「志賀さん、死体に添えられていたカードはこちらです」

 きっちり二メートル離れたところから声を掛けてきたのは後輩刑事だ。彼はささっと駆け寄って志賀刑事にカードを手渡す。カードに書かれていた内容は『私は怪盗コロナ。今回も命と十万円をいただいた』というふざけたものだ。

「これで八件目か……」


 少額を巡っての強盗殺人事件は実は珍しくない。

 しかし、計画殺人で十万円を奪い取るというのはあまりにも額が安すぎる。


「怪盗コロナとやら、いったい何者なんだ……」

 怪盗コロナは、現金が一律給付された直後に突然現れた。警察に予告状が送り付けられてきたのである。十人の命と、その人間がもらった十万円、合計百万円をいただきに参上する、と。


 翌日、一人目の被害者の居場所だという暗号が警察に送られてきた。必死で暗号を解いた警察だったが、それでも丸二日かかった。それだけ暗号は難しかった。

 ようやく警察が見つけた死体のそばには、先ほど見つけたカードと同じもの、つまり『私は怪盗コロナ、命と十万円をいただいた』と書かれたカードがあった。


 被害者死体の場所を書いたカードは毎日のように送られてくる。暗号は回を増すごとに難しくなり、マスコミも警察の失態を大きく取り上げて報道していた。

 最近では、暗号がマスコミに漏れ、警察が到着する前に野次馬が集まっていることさえあった。


 志賀たちは完全に疲弊していた。そもそも、こんな短期間に県内で何件も殺人事件が起こる時点で前代未聞だ。

「まだ殺人があと二件残ってるだなんて……。俺たちはどうすればいいんだ……」

「志賀さん、本部から電話です」

 また社会的距離ソーシャルディスタンスを取るべく、二メートル離れた位置から後輩刑事が呼びかけた。


「はい」

 志賀刑事は不機嫌そうにテレビ電話に出た。リモートワーク中の志賀刑事の上司が自宅からかけてきたらしい。


「五件目の事件の頃から、暗号解読の専門家をオファーしていたんだ。来てもらうのに時間がかかってしまったが。もうすぐ君のところに来る」

「ふん、その専門家とやらも、どうせリモートワークなんでしょう」

 志賀刑事は隈を作った眼で上司を睨みつける。


「いや、現場に来るそうだ」

「なぜですか?」

「カードの実物を見たいそうだ」

「はぁ」

「その彼が来ても、社会的距離ソーシャルディスタンスを忘れないようにな。二メートルだぞ、二メートル」

「……了解」

 志賀刑事は引きつった笑みを浮かべてテレビ電話を切る。


 と同時に、事件現場のインターホンが鳴った。志賀刑事は後輩に応対させる。

「こんにちは。ミステリ作家の石倉いしくらです」

 玄関口から溌溂はつらつとした声が聞こえ、後輩刑事と共に廊下を歩いてくる足音がする。

 すぐに石倉という男が顔を出した。精悍な顔立ちの若い青年である。


「えーと、あなたが担当の……?」

「志賀です。よろしくお願いします」

 マスクもしていない石倉は、いきなり二メートル圏内に近寄ってこようとしてきた。志賀刑事は慌てて後ずさりして逃げる。

 こいつ、コロナの恐ろしさをわかっていないな?


「暗号解読の専門家が来ると聞いていたんですが、あなたですか?」

「ええ。副業でミステリ作家をしていますが、本業は暗号です。作る方も解読する方も」

 なんでも、暗号だけでは食べていけないのだという。世知辛い世の中だ。食えないからと言ってミステリ作家になれる才能もすごいが。


「志賀さん、僕にはタメ口でいいですよ。元々運動部で、年上の人に敬語で話されるとかえって引いちゃうので」

「そ、そうか……」

 石倉という男、一見クールに見えるが中身は随分と陽気だ。


「で、志賀さん。死体に添えられていたというカードを見せてください」

 社会的距離ソーシャルディスタンスのせいで、直接カードを渡せない志賀刑事は、黙ってカードの置かれた机上を指さす。石倉は手術用のゴム手袋をはめ、目を輝かせてカードを手にした。

「ふむ、こういう材質なんですね」


「しかし、君はなぜ実物をそんなに見たがるんだい?」

 一般人なら、死体など御免ごめん、後でカードを見せてくれというのが普通だ。梁からぶら下がった死体を目にしてまで、いち早くカードを見たいという理由が志賀刑事にはわからなかった。


「僕はミステリ作家ですから死体に抵抗はありません。カードを見たかったのは、なるべく早く情報を集めて、次の殺人を防ぎたいからです。カードの実物を見たい理由は、暗号の性質にあります」

 石倉は指を一本立てた。


「そ、それは?」

「あの暗号、途中から性質が変わりましたね。最初の三つの事件は、暗号の内容だけが重要でした。つまり、文字を読みかえたりする、きわめて普通の暗号です。ですが、四件目以降から厄介になりました」

「そうかな……?」

 志賀刑事には心当たりがない。どれも難易度の高い暗号だった。


「暗号が書かれたカードそのものが重要な暗号になりました。フォントの違いや文字の位置、カードの大きさが解読に必要な暗号だったでしょう?」

「確かにそうだ。でも、それに何の関係が……」

 運び出されていく死体をしりに、志賀刑事は石倉に問いかけた。


「間違いなく、怪盗コロナは途中から暗号を作り変えています。一度、暗号がマスコミに漏れたことがあったでしょう? 恐らく怪盗コロナは、一般人に暗号を解かれると困るんです。だから、カードの実物が重要な暗号にしたんでしょうね」

 そのため、石倉も暗号を解くには実物が必要なのである。


「しかし、そのカードは死体に添えられていたもので暗号じゃないぞ」

「情報は多いに越したことはありません。それに、印刷やフォント、紙の材質も怪盗特定の手がかりですから」

「なるほどな。頼むぞ、石倉くん」

「どうぞ、僕にお任せください」

 石倉は胸をどんどんと叩く。

 しばらくして現場検証の第一段階が終わり、石倉もパトカーに乗せてホテルに送ったのだが、パトカーに大喜びで乗る人間というものを志賀刑事は初めて見た。


***


 石倉の強い希望で、彼はホテルから警察署までパトカーで送り迎えされている。奇妙な光景だが、客の希望なのだから仕方ない。

 警察署では、石倉の為に今までの暗号が全て袋に入れて用意されていた。ゴム手袋をはめた石倉は、指をグネグネ動かして暗号を触る準備運動をする。


 志賀刑事には、彼の手がひっくり返った昆虫の足の動きにしか見えなかった。


「なるほど、思ったよりカードは分厚いですね。透かせませんから、カードを重ねる暗号は出てこないでしょう。フォントはごく一般的なもの。印刷の方法は、恐らく印刷所ではなく家庭のコピー機で印刷されたもの……」

「あの、石倉くん」

 石倉の独り言が収束するのを待っていたが、ずっと喋り続けるのでタイミングを見失ってしまった志賀刑事が割り込んだ。


「先ほど言っていた、怪盗コロナが一般人に暗号を解かれては困る理由は何だ?」

「おそらく時間でしょうね」

 石倉は熱心にカードを眺めながら答えた。

「怪盗コロナは、すぐに死体発見現場に直行されては困る理由が何かあるんだと思います。だからわざわざ警察に暗号を出したんです。暗号は警察への挑戦状でも当てつけでもない。ただの時間稼ぎです」


「しかし、なぜ時間稼ぎなんか……」

 それならば、居場所を遅く知らせればいいだけの話だ。

「それはわかりません。無理に推理しようとしても、根拠のない憶測にしかなりませんよ」

 石倉は急に冷たい声になった。


「データ不足です。悲しいですが、これは九件目の暗号を待つしかありませんね。完全に僕の力不足です。申し訳ありません」

「いや、君のせいじゃないよ。怪盗コロナは、殺人を犯してから暗号を送ってくるんだ。事件は防ぎようがないんだよ」


 しかしそれでもマスコミには叩かれる。それが志賀たち警察の疲労の原因の一つだ。元々石倉は、暗号を迅速に解くために呼ばれた人間だ。怪盗コロナの正体を特定したり、殺人を防ぐ必要はない。


「あの、志賀さん、質問があります」

 しばらく落ち込んでいた石倉だが、急にするすると手が上がる。

「なんだ? 俺に答えられる質問だといいんだが」

「怪盗コロナは、どうやって十万円を奪ったんですか?」


「いい質問だな」

 志賀刑事は口角にうっすら笑みを浮かべる。

「わからないんだ」

「わからない、というのはどういうことですか?」

 石倉の口調は鋭い。


「わからないんだ。金が奪われているのは確実なんだがな」

 被害者の家族によると、引き出した金の入った封筒が消えたパターンがほとんどだった。家族全員分の金の入った封筒の中から、ちょうど十万円だけを抜き取っていった例もあるという。

「奪った命の分だけ盗む、ということですか……」

 奪おうと思えばいくらでも奪えるのに、ちょうど十万円だけ盗む。

 石倉には怪盗コロナの目的がわからなかった。


「どこからか金を引き出したという情報を掴んだんだろうな」

「逆に言えば、そのような情報を掴んだ人を狙っているのかもしれませんね」

「だろうな。生活に困っている人なら、いち早く金を引き出すだろうし……」

 実際、口に出しては言えないが、生活に困窮していたり、コロナ騒ぎで給料が減って困り果てていた家庭が狙われていたことが多かったというのが、志賀刑事の率直な感想だ。中には世帯主が、事業の経営悪化のために失踪していた場合もあった。

 志賀は被害者家族宅を訪問するたびに同情せざるを得なかった。


「殺す直前に被害者から銀行口座の暗証番号を聞き出したとしても、コンビニの防犯カメラやATMに引き出す姿が写ってしまいます。だから現金を狙ったんです」

 石倉は、バラバラに散らばった暗号カードを一つにまとめて整えた。


「被害者に共通点はありますか? このような目的の見えない殺人だと、被害者に似通った共通点がある場合が多いのですが」

「いや、特にないな。被害者は、男性、女性、老人、成人、中には子供まで。職業も、自営業の大黒柱、サラリーマン、専業主婦、年金暮らしの老人などなどだから、共通点らしいものはない。本当に見境のない被疑者だよ」

「となると、猟奇殺人ともまた違うものを感じますねぇ……」


「志賀さん! 怪盗コロナから、また新たな暗号が届きました!」

 その時、ばんと部屋の扉が開いて後輩刑事が駆け込んできた。

「おい、二メートルだぞ」

 志賀刑事は後輩に暗号を机に置かせ、しっしっと手で追い払う。

「志賀さんたちは濃厚接触してるじゃないですか……」

 後輩は理不尽そうに声を絞り出し、入り口付近に後ずさりした。

「俺たちはちゃんとマスクしてるから」


「志賀さん、僕に暗号を見せていただけますか」

 石倉は手をカードに伸ばし、丁寧に裏と表を観察する。そしてメモ帳にものすごい勢いで何かを書き始めたかと思うと、ノートパソコンで何やら調べだした。

 それを何度も繰り返し、石倉はチラシの裏に大きく文字を書いた。


「解けました。次の被害者の居場所はここです」

 石倉はチラシを志賀刑事に見せた。

「は、早い……。今まで警察が一日かけていた暗号を、たった三十分で……」

 後輩刑事が呆然としたように呟いた。

「さあ、早く現場に行きましょう。僕の推理の答え合わせです」

「わかった」

 志賀刑事は石倉の声に頷き、大急ぎで無線を取り出した。


***

 

 現場は野次馬だらけだった。それは暗号がマスコミに漏れたからではない。漏れ出す間もなく、石倉が三十分で暗号を解いてしまったのだから。

 人だかりの理由、それは火事だった。現場となった廃屋は大きく火の手が上がり、消防が一生懸命に火を消していた。


「またか……」

 消防が放水する様子を志賀刑事は呆然と眺めていた。

「また、とは?」

 だいだい色の炎に照らされる石倉は志賀刑事に問いかける。


「怪盗コロナは放火もよく使う。もちろん焼き殺すのではなく、あらかじめ殺しておいた死体を小屋に持って行って焼くんだ」

「証拠隠滅ですか……」

「さすがはミステリ作家、話が早いな」

 警察は、うっかり証拠を残してしまった怪盗コロナが、証拠隠滅の為に放火したとみている。九件の殺人事件のうち、今回を含めて三件で放火が使われていた。


「放火の時だと、死体に添えられるカードはどうなっているのです?」

「金属の缶に入れられて地面に埋められているよ」

 今回も消火と現場検証が終わったら、周囲を掘り返してカードを探さねばならない。


「怪盗コロナ、意外とうっかりさんなんですね……」

 石倉は口元に指を当てて呟いた。

「僕はもっと用意周到な人物かと思っていましたが」

 送られてきた暗号には全く指紋が残っておらず、暗号の内容も非常に高度だった。怪盗コロナは頭の良い人物なのだと思っていた。いや、実際そうだろう。現に、四件目の事件以降は、急ごしらえの暗号である一方で難易度は高い。

 しかし、全事件の三割以上で証拠を残してしまうとは。殺人という一大仕事には意外とトラブルがつきものなのだろうか。


「全くわからない……」

 警察署に戻ってもなお、石倉は事件の謎の多さに頭を抱えていた。

「いいじゃないか。暗号をあんなに早く解いてくれただけで警察は大助かりさ。わざわざ君を捜査本部に入れた甲斐があったってもんだ」


 第五の事件の時に石倉を呼んだのに、彼が到着したのは第八の事件だ。そこまで時間がかかった理由は、一般人が捜査に関わる許可を取るのが難しかったからである。しかしその労力も報われ、今頃、志賀刑事の上司は大喜びであろう。


「志賀さん、聞きたいことがあります」

 難しい顔で俯いていた功労者がふと顔を上げた。

「なんだ?」

「放火されなかった事件の詳細を教えてください」

「そりゃ、構わないけど……。なんなら、資料を見るか?」

 志賀刑事は資料室の方を指さす。


「僕も見ていいんですか?」

「当然だろ。なにせ、君は正式な捜査関係者なんだからな」


***

 

「僕が初めて事件現場に行った第八の事件、あの事件は首吊りでしたね」

 石倉は捜査資料のファイルを眺めている。後々、自らのミステリ小説に生かそうとこっそり思っているのは内緒だ。

「ああ。怪盗コロナには多いんだ、一見首吊りのような死体が」

 カードが無ければ自殺にしか見えない。このカードが無ければ殺人だとも分からないのだろう、という隠れたメッセージだ。警察を弄ぶのが目的だろうと志賀刑事は推測している。


「しかし、首吊りでは独特の痕跡がありますよね」

「ああ、首の後ろに紐の跡がついていないからな」

「殺人で首を吊らせるというのは可能なのでしょうか?」

「一応可能だ。背中合わせに背負って首を絞めれば、首吊りと同じ跡が生じる」

 なるほど、と石倉は何度も頷く。


「自殺に見せかける以外に、わざわざ背負って首を絞める意味はない。片手が不自由な人間が首を絞めると、このような絞め方になると言えばなるが……」

 しかし、怪盗コロナの他の犯罪の手際の良さを見ると、片手が不自由とはとても思えない。

「となると、やはりわざと首吊りのような殺し方をしている、ということですね」

「そうなるな」

 怪盗コロナの美学なのだろう。警察への当てつけだ。


「首吊りが三件、放火が三件、転落死が二件、毒殺が一件ですか……」

「毒殺は、農薬が注射されていたよ。腕にも注射痕があった」

「転落死というのは?」

「廃倉庫と全く人気ひとけのない裏路地の奥での転落死だ。特に不自然な点はない」


「……刺殺や撲殺はないんですか?」

「なかったな。強いて言えば、転落死では死体が強い衝撃を受けていた。けれど法医学者も突き落とされたと考えて、不自然はないと言っていたよ」

 突き落とされ足を踏み外して転落した死体では、足が衝撃を受ける。撲殺を誤魔化すことはできない。


「放火の時は、灯油が撒かれて火がつけられ、廃屋が燃え上がる、と……」

「小屋の時もあるが、いずれにしても人は住んでいないな」

「カードは缶に入れられて地面に埋められているんですよね。缶はどのようなものですか?」

「同じ材質の缶だ」

 缶の入手ルートを調べてはいるが、まだ手がかりはない。


「志賀さん、第九の事件の解剖結果が出ました」

 後輩刑事が部屋の扉を開けた。

「おう、机に置いてくれ」

 志賀刑事がそう言うか早いか、石倉が資料に手を伸ばす。


「それが、なんか変なんですよ」

 後輩刑事は石倉が掴んだ資料を指さした。

「どうしたんだ?」

「死亡推定時刻が、四日以上前なんです」

「こんがり焼けた死体でも死亡推定時刻なんてわかるのか」

 変なところで志賀は驚いてみせる。しかしその疑問にあっさりと答えを返したのは石倉であった。

「わかりますよ。直腸温が意外と当てになるというのもありますし、遺体の焼け残り方によっては死亡推定時刻くらいは出ます」


 今回は、石倉が早く暗号を解いたのもあり、現場に到着するのが通常よりかなり早かった。遺体が白骨になってしまっては調べようがないが、今回は多少焼け残っていたということらしい。


 想像するだけで気分が悪くなった志賀だが、刑事の意地として無理に隠し通すことにする。

「となると、怪盗コロナは被害者を殺してかなり時間が経ってから暗号を送ったことになるな」

 志賀の声は少し震えていた。

「そういうことです」

 石倉は堂々と頷き返した。


 今までの怪盗コロナは、被害者を殺してからすぐに暗号を郵送したと見られている。普段と異なる行動をとったのは今回が初めてだ。

「なぜだ? 今回、何かあったのだろうか……」

「いえ、メッセージカードの入った缶を地面に埋めるのですから、用意周到なのは間違いないはずです」

 石倉は鋭く口を挟む。


「地面……?」

 その瞬間、石倉の頭の中に答えが浮かび上がった。


「ははは、なるほど。そうか、わかった」

 クールな装いの石倉が急に笑い出したので志賀刑事はびくりとした。

「わかったって、何が……?」

「怪盗コロナ事件の真相ですよ」

「なに!? 怪盗コロナの正体がわかったというのか!?」

「いえ、それはわかりません。ですが、追う必要もありません。丁寧に捜査をしていけば、いつかは捕まります」

 石倉は手持ちのメモ帳を1枚ちぎり、悠々と鶴を折っている。


「しかしそれでは、十件目の事件が防げない。事件を防げなくても君の責任ではないが、警察としては全力で捜査しなければ……」

「十件目の事件なんて、防ぐ必要はありません」

「嘘だろ……?」

「十人の命を次々と奪う怪盗コロナ、その解釈が間違いなんです」


「志賀さん、この事件の真相、知りたいですか?」

 唾を飲んだ志賀刑事はおもむろに頷いた。石倉は自信満々に口を開く。

「さて──」

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