7.身体


 今度は傘をさして、ビニールを叩く雨だれの音を聞きながら道を歩いた。二人の身体を収めるには少し幅が足りなくて、私も彼女もちょっとずつ肩を濡らした。

「恋人みたいだね」

 彼女はのんきにそんなことを言って、水溜りをよけながら進む。小さく手を振って、機嫌がよさそうだ。

「こんな時に言う言葉じゃないよ……」

 そういう私も彼女の様子に当てられて、随分と気が楽だった。死体を埋めよう。もう必要とされないあの醜い人型を、二度と目につかないように。

 私を詰る人型の罪を埋葬すれば、贖罪の要件を満たせるだろうか。

「無理だよ」

 青いビニールシートの前に立った彼女はそう断言した。閉じた傘は、乾いた地面に放り投げる。

「実在しないものに何をしたって、それは無駄骨というものだろう」

 ビニールシートをはがして、はげた地面を露わにする。彼女は横で突っ立って、「何より」と口にする。

「儀式は必要だよ」

 形而上のものを相手にするなら、なおさらね。

「手伝ってくれないの?」

 私はシャベルを握りながら彼女を見上げた。彼女は器用に片眉を上げて、

「君が主人で私たちは奴隷だ。所有物の始末は持ち主がするべきだと私は思うね」

 それに、と彼女は続けた。

「私に期待するのがどれだけ馬鹿げているか、君はわかっているはずだよ。何せ、これまでだって私は何もしてはいないのだから」

「そうだね。そうだったね……」

 雨音の中に呟きは消える。それでも彼女が私の言葉を聞き逃すことはなかった。

「私は、ありもしない罪を一緒に被る共犯者としての役割しか果たせないよ」

「うん」

 私は頷いた。

「それで、十分」

 愛さなくていい私であってくれれば、それで良かった。

 私が一番欲しかったものを、彼女は理解していてくれる。私が殺すほどに疎ましく思っていたものに執着しない。押し付けない。どこまでも都合よく、私の傍にい続けている。

「ありがとう」

 そう言って、私はシャベルをつき立てる。

 真実は土の下に。

 淀んだ血臭は雨の中に。

 罪は目を隠して、私たちを映さない。

 私は殺す。私は捨てる。私は埋めて、そしていつか、私自身から自由になれるだろうか。

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