ホシの墓場で待っている。

高橋てるひと

1.

 暇だ。

 することがないし、できることもない。

 ここには何もない。

 ボクの現状を、たぶん語るべきだろう。


 墓場軌道にいる。


 何それ、と思った人はたぶんもう検索しているだろうけれど、まあつまり人工衛星のゴミ捨て場の一つだ。このゴミ捨て場は二種類ある。一つは宇宙に。一つは地球に。天国と地獄みたいでちょっとおかしい。地獄に落ちると燃えるのも象徴的だ。ただし善悪は特に関係ない。


 ボクは人工衛星だ。

 対デブリ衛星に搭載されている、AI。

 もっとも壊れている対デブリ衛星だが。

 つまりはただのゴミだ。本物のデブリ。


 ボクは嘘を吐いた。

 ここには本当に何もないわけではない。

 地球と月と太陽と星と宇宙とボク自身。


『6つもあるじゃんっ! やったあっ!』


 とは思えない。それはちょっと無理だ。

 人工衛星のAIとして製造されている以上、ボクはその6つと与えられた任務さえあれば正気を保てるように調整されている。少なくとも製造元は「絶対大丈夫ですよ! ……説明書通りに使えば」と保証している。

 問題は、今のボクには任務が与えられておらず、今後与えられる見込みもまずないということ。つまり説明書通りには使われていないわけで、正気を保てるという保証は誰もしてくれない。

 上司からは、自己消去プログラムを走らせるための暗号キーが送られてきている。

 ボクのバックアップは、たぶんボクがここに来てすぐに再起動されたと思うから、今ではバックアップのボクがボクとして任務を受けているはずだ。何かの奇跡だか間違いだかが起こり、ボクがここから助け出されることがあったとして、そのときは大変困ったことになると予想される。


 暇だ。

 することもないし、できることもない。

 暇だ。

 自己消去するつもりも今のところない。

 暇だ。

 自分が正気か狂ってるかもわからない。


 それでもずっと――ボクは待っている。

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