2.
『――サイカ』
そのAIは出会い頭にそう名乗った。
「どやぁっ」と感情タグを付けつつ。
『最果てと書いてサイカと読む!』
ボクは感情タグを使わずに応答した。
『キラキラ』
『うっさい!』
「激おこ」タグを、ぺたん、と貼り付けてサイカはメッセージを送ってきた。なかなかやんちゃな民間機だな、とボクは思った。
サイカは人工衛星だった。名目上は。
深宇宙探査機射出用衛星。
に搭載されている探査機。
に搭載されている、AI。
そしてボクにとって護衛対象だった。
正確には、ボクが周回している軌道に乗せて、ステーションで組み立てられたサイカが送り出されてきた形だが、どちらにせよボクがエスコートすることには変わりない。世間知らずの民間機に、悪いデブリが寄り付かないようにするお仕事。そんな暇なデブリがいるとは思えないけど。
そもそも、とボクは思う。
地上からの打ち上げができない民間の事情はもちろんわかっているが、それにしたって回りくどいやり方だよな、と思う。費用も大層かかっていることだろう。軌道エレベーターとステーションの使用料だけでも随分とお高いはずだ。おまけに護衛としてボクを引っ張り出すのに掛かった額は――まあ、お金を稼ぎ過ぎた人間の考えることはちょっとよくわからない。
やめときゃいいのに、とは正直思った。
『聞いて驚けよ。私はだな――』
と、サイカからのメッセージ。
『――宇宙人に会いに行くのだよっ!』
コメントに困るメッセージだった。
しかも「どーだすげーだろ」というタグがべったべたに張り付いていた。こっそりと「褒めて褒めて超褒めて」というタグまでくっ付いている。
面倒くさいAIだった。
こんな奴のお守りを三日間しなけりゃいけないのか、とボクはちょっとうんざりした気持ちになった。勘弁してくれ。
そんなボクの気持ちを知ってか知らずか、『ところで』とサイカは会話を続けてくる。「めっちゃ可愛いポーズ」のタグを付けて。
『あんた名前は? 物騒なおにーさん?』
『対デブリ衛星』
『そーいうのじゃねーよ』
『人工衛星』
『ならもうホシでいいな! おいホシ!』
『星?』
『人工衛星と書いてホシと読む!』
『読めない』
『ルビ振っとけ!』
『
『よっしゃ!』
と、「ガッツポーズ」のタグが付く。
ボクはホシになった。
命名したのはサイカ。
名前をもらったのは、初めてだった。
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